昨年のロシアによるウクライナ侵攻直後にベルリン入りしたシルベストロフの新曲に接した時に驚いた。泡を吹きながら爆発して怒りを露わにする喋りぷりから、新曲を披露したときの穏やかな顔と演奏は、まるで別人の様で、神が我々の平和への願いを聞き入れられたごとくの穏やかなものであった。
シルベストロフ自身この不条理の世界にあっても、真の平和は憎しみと怒りでは到達できないことを自分自身に納得させようとして作曲し演奏している様に思えてならなかった。これが音楽の力なのだと感じた。
あえて「実感」と記さないのは、「感じているもの」は何かと言うことを認識するのに大変な時間とエネルギーが掛かってしまい、時間という「単語」の意味がその認識するに至るエネルギーと時間を体現しないように思えたからである。今、平和を求める、考えると言うだけで大変なエネルギーを要するような気持ちになってしまうのは、ワンおばちゃんだけなのか。そう言う気持ちになった時にイスラエルとパレスチナのガザの惨状を知るに至った。いったい遠くの日本にいる我々に何ができるのか。そう言う時に細やかながら、もう一度音楽に目を向けてもらいたい。
私たちに出来るたった一つのことを。
そう言う訳で東京の蒲田御園教会 で10月28日に開催するヤエル・ワイスのサロンコンサートではベートーベンのミサ・ソレムニスの譜面に作曲者自身が書き込んだ“Call for Inward Peace and Outward Peace” を求めてベートーベン最後のピアノ・ソナタ、第32番ハ短調 作品111を初め、ベートーベンの平和への眼差しを感受したいと思います。
戦争や紛争が各地で連鎖的に勃発している時に残念ながら我々にはこのぐらいの事しかできないのです。「これしか出来ない事」を敢えてするのは「音楽の力」の存在を自分自身に再度納得させたいからです。ワイスは両親が共にウクライナのリビュ出身でイスラエル/米国籍ピアニストでアメリカを代表するベートーベンの専門家です。