シカゴ・オペラ・シアターにて先週日曜にオペラを指揮したリディア・ヤンコフスカヤ(1984- アメリカ)はその日なんと、出産からわずか3日しか経っていなかった。すごすぎる。
どえりゃー話だなと思ったんですよね。まじですごいなと。
前提として、これは誰にでも出来ることではないことは理解しておかないといけません。これがスタンダードとかになってもいけません。指揮した本人も「誰にでも出来ることではない、自分は大変幸運だ」と但し書きをつけていることはよく理解しておくべきでしょう。私も出来るかもと簡単に真似したらいけません。
https://slippedisc.com/2021/12/three-days-after-childbirth-lydia-conducted-an-opera/
新作オペラで一幕もの、クリスマス系のタイトル“Becoming Santa Claus” 《サンタクロースになる》だからファミリー向けかもしれません。とはいえレビューを読むと長さは90分でスコアも複雑、微分音も使われているみたいな事も書いてある。どんな作品やねん。指揮者の負担はかなり大きいと言えよう(どんな作品だって指揮者の負担は大きいわけですが)。
いずれにせよリハーサルの間、それから演奏中とカーテンコールの時間は少なくとも物理的に赤ちゃんのそばにいることはできないので、夫、親、もしくは子守をしてくれる人が楽屋にいなければならない。寝ててくれていればラッキーだが、そうでなければお相手をしたりおむつを替えたり、ミルクをあげなくちゃあなるまいて。泣き声が客席に漏れないよう配慮も必要だね。
そしてさらに「指揮する」という行為は大変な運動量なわけですから(※)、自分が貧血その他でぶっ倒れるリスクもある。誕生から3日と言ったら、まだ日本だと親子ともども入院している日ですよね。欧米ではもっと早く退院するらしいけど、体力的にもきっついと思います(無痛出産なら少しは肉体的に楽なのかも?だとしてもきっつい)。
※リヒャルト・シュトラウスを除く
医者との相談のみならず、現場のオーケストラ、事務局、歌手、合唱団そのほかの皆様の(全員じゃなくてもいいかもしれませんけど)、理解と協力が必須だ。途中で指揮できなくなったらどうするか、プランBを考えておく必要があり、指揮者が途中で指揮不能になった場合、アシスタント指揮者もしくはコンサートマスターが即座にステップイン!(交代)するという話はつけられていたのではないかと想像。劇場側も、かつて前例のない体験に、ぞくぞくして興奮していた、ワクワクテカテカしていたのではないか。おめでとうおめでとう!!
それにしても本人が他人から言われたっていうコメントがハラスメント全開でやばいですやんか。
「誰も妊娠中の指揮者を見たがらない」
「新生児の世話をしながら指揮することはできない」
「女性にとって、子供を持つことと指揮は両立しない」
しかし彼女は「オペラハウスのメンバーは非常に協力的だった、とてもラッキーだった」とも語っているので、これは一般ピーポーからの罵声ですねきっと。
アメリカの大都市(シカゴです)でこれなんだから、日本だともっとひどいことになるかもね。実際私の経験でも、女性演奏家が妊娠して来日中止になると必ずお客様から「プロとしての意識が足りない」っていうクレームがきましたからね。しかも男性女性問わずありましたからね。
自分に甘く、他人に優しく、そういう優しい世界が来年は実現しますように。
サンタさんにお願いしときました。