オデッサが危険にさらされている。攻撃される危険性があるという。ゼレンスキー大統領はロシアがオデッサへの砲撃を準備していると警告している。
ロシア軍、港湾都市オデッサ砲撃準備 ウクライナ大統領
https://www.afpbb.com/articles/-/3393587
クラシック音楽においてオデッサという街の歴史的な重要性はいくら言っても言い足りない。この街から出た音楽家をみれば一目瞭然である。オイストラフ、ミルシテイン、ギレリス、パハマン、モイセイヴィチ、チェルカスキー、グリンベルク、シモン・バレール、ヤコフ・ザークといった大音楽家たちがうまれている。またザハール・ブロンもオデッサで学んでいる。こう聞けばある程度以上クラシック音楽家に詳しい人なら腰を抜かされるのではないだろうか。
そしてリヒテルである。スビャトスラフ・リヒテルは3歳からオデッサに住み15歳からオデッサ歌劇場(↑↓写真)のコレペティトール(※)として働いていた!
私も前職でオデッサ歌劇場の来日公演に関わらせていただいた。2012年のことで演目は《イーゴリ公》。ウクライナの歌劇場がロシア音楽を演奏することに抵抗を感じなかった10年前は、もはや二度と戻ってこない。
※歌手やダンサーにピアノを弾きながらさまざまな稽古をつけるなどする歌劇場において極めて重要な裏方仕事
オデッサの歌劇場はウクライナでもっとも古い。Wikipediaによれば1887年建築。1636席というかなりの数の座席数を持つが、ささやき声でも客席に届く素晴らしい音響を持つという。客席はUの字に配置されていて、いわゆる馬蹄形と呼ばれる形をしている。
オデッサの歌劇場が危険にさらされたのはナチスの侵攻のとき以来だという。そのときはソ連軍がナチスを撃退した後、当時ウクライナ担当だったフルシチョフが飛んできてオペラハウスは無事か、ということを最優先事項で確認したのだという(建物の一角が損壊していただけですみ、安堵した)
再び劇場に危機が訪れている。ハリコフの歌劇場で起こったことを見れば、ロシア軍がこの歴史ある歌劇場を攻撃しないという保証はどこにもない。
歌劇場の歌手たち、バレエダンサーたち、オーケストラ奏者たち、そして音楽院の教授たちが土嚢を積み上げ、ヘッジホッグ(針鼠)と呼ばれる対戦車用のバリケードを設置している。その合間に何度も何度も国家を歌い、ともに働く人々を(そしておそらく自分自身を)鼓舞している。
「大切なことは、もう恐怖を感じないということだ。これは私たちがすでに勝利したことを意味するのだ」
“What’s important is to say that we no longer feel fear,” he added. “That means we have already won.”
何と凄絶な一言だろうか。