皆さんは人種差別を体験したことはありますか。
ヨーロッパの文化を仕事にしている自分ではありますが、人種差別でダイレクトにいやな思いをしたっていうのは幸いにしてあまりなくて、記憶に残っているのは、①ソレントからナポリに向かう電車の中で10歳前後の子ども2人に暴言をはかれた(両親はニヤニヤとこちらを眺めていた)、②ウィーンの地下鉄で若者たちの集団にアジア人蔑視的な言葉を投げかけられた。これぐらいです。どっちも電車の中っすね。自分が気づいてなかった差別もあるかもしれないけど。
さて、オースティンという都市はテキサス州にあります。オースティン交響楽団(公式サイト)の首席トロンボーン奏者が、この暴動の最中ソーシャルメディアで「黒人を蔑むような暴言を吐いた」という理由で一発解雇された、という話。これはなかなか考えさせられるものがあります。6月1日の話です。
https://www.classicfm.com/music-news/austin-symphony-apology-for-player-racist-comments/
オースティン交響楽団のツイッターが「適切な行動を取る」と発言してから、解雇を表明する次のツイートまでにわずか20時間弱しかかかっておらず、めちゃくちゃ対応が迅速。
以下のツイートは楽団公式ツイッター、「えらいこと聞いたわ」という最初のつぶやき。
We have been made aware that a musician of the Austin Symphony Orchestra has made an offensive post on their social media account regarding the protests across our country. This language is not reflective of who we are as an organization. (Part 1)
— Austin Symphony (@AustinSymphony) May 31, 2020
それで次が同楽団から20時間ほど後に出された3連投ツイート、その訳:
楽団エグゼクティブディレクターのアンソニー・コロアからのメッセージ:
https://twitter.com/AustinSymphony/status/1267230270262042624
「コミュニティに感謝します。そして皆様からの声が聞かれたことをお知らせしたいと思います。前述の通り、団員の一人がソーシャルメディア上で攻撃的な投稿をシェアしたという通報を昨夜遅くに受けました。私たちはそのコメントを読み愕然としました。アメリカ音楽家連盟、オーケストラの委員会、スタッフ、その他の主要メンバーと迅速かつ密接に連絡をとり対応を協議しました。そして、たったいま、この団員はもはや楽団には雇われていないと断言いたします。この間の皆様の忍耐に感謝いたします。」
これについていろいろな人たちが入り乱れて場外乱闘状態になっていました。
私が目にしたのはClassic FM誌のFacebookコメント欄、レブレヒトのブログのコメント欄ぐらいですが、ここまでコメントがつくのか、というぐらいに猛烈にみなさんコメントを書いていて、賛成から反対まで幅広い。関心の高さがわかります。
オーケストラの判断は妥当か、やりすぎか
というわけで皆さんも考えてみて下さい。『黒人差別の発言をSNSで書き込んだら一発でクビ。オーケストラの判断は妥当か?やりすぎか?』
反対派のコメントは「明らかにオーケストラは過剰に反応した。彼女のトロンボーン奏者としての能力を全く無視している。オーケストラは思想によって雇用を左右すべきではなく、ただ演奏によって決められるべきものである」とかそういうの。
解雇を擁護する派の主な発言は「何を発言するかはその人の自由だからそれだけでは逮捕や拘束はされないだろう、だが解雇する自由も雇い主にある」といったものでしょう。
まあだいたいご想像がつくと思いますけれど、コメント欄を眺めますとオーケストラの判断を支持する方が旗色はよい。たぶん私もオーケストラを支持すると思います。でも叩いて満足してるだけでは人種差別はなくならない。そもそも人種差別はむちゃくちゃ根が深いし多種多様。
それから日本にいるとどうしても日本人は白人側に位置しているように勘違いしがちですが、それは違う。日本人を含むアジア人は黒人よりももっとずっと立場が低い。うそだ!日本人は尊敬されていてなんたらかんたら!!と言う方はたとえばWikipediaの「アメリカ合衆国の人種差別」項目とかもご覧になるといいですよ。
学校でのアジア系に対するいじめは、他人種よりも酷く、10代のアジア系アメリカ人のうち、半数以上が学校でいじめられた経験があると回答。これに対して黒人やヒスパニック、白人では1/3程度である。フィラデルフィアの学校では2009年にアジア系の生徒に対する集団暴行事件が発生、被害者は1日で26人に上り、うち13人が重傷を負って集中治療室で手当てを受けた。この学校では、アジア系生徒が身の安全が確保されるまで登校を拒否するストライキに発展した。アジア系は、他人種に比較して、うつや自殺の割合が突出している。2009年、アメリカの司法省と教育省が10代の学生を調査した統計によると、31%の白人、34%のヒスパニック、38%のアフリカ系が「学校でいじめを受けたことがある」と答えたのに対して、アジア系学生の場合は54%に達するという結果が出た。
https://ja.wikipedia.org/wiki/アメリカ合衆国の人種差別
これを見てもなお、アジア人に日本人は含まれない、と言いたくなる人もいるかもしれませんけれど、もちろん日本人もばっちり含まれますから。
カナダの首相が記者の質問に20秒以上絶句したのとかみてください。口を開いた後も、言葉を選びながら超慎重に答えていますもんね(字幕あり)。この沈黙は非常に重く、その後に出てきた言葉もまた極めて重い。カナダにも肌の色で差別があることをはっきりと認めている。(動画再生できない場合は動画の下に出ている日時あたりをクリックかタップすればもともとのツイートに行けて、そこで再生できると思います。)
BBCニュース - 20秒以上の沈黙 カナダのトルドー首相、トランプ氏について意見求められ https://t.co/EO1BIyer6k pic.twitter.com/3dni4cyNJ9
— BBC News Japan (@bbcnewsjapan) June 3, 2020
人種にかぎらず性、能力、地位、宗教などによって差別はそこかしこで起こっている、ということには常に自覚的でなければなりません。オーケストラの中にも、クラシック音楽業界の中にも差別は起こりうるし、実際にこうして起こっている。日本も例外ではありません。