アメリカ屈指の指揮者ジェイムズ・レヴァインが3月9日に亡くなったそうです。死因は明らかにされていません。享年77歳。昨晩、報道されたようですが、日帰り福島県して、草臥れて泥のように眠った私が知ったのは朝起きてからでした。ご冥福をお祈りします。
https://www.nbcnews.com/news/us-news/james-levine-who-ruled-over-met-opera-dead-age-77-n1261322
https://www.nytimes.com/2021/03/17/obituaries/james-levine-dead.html
ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の監督として1971年より何十年にもわたり牽引したジェイムズ・レヴァインの晩年は、残念ながら「栄光に包まれた」とは言い難いものでした。文字通り、老いたライオンが群れから追われるがごとく、に近い感じだったのではないかなと。
長く病気に苦しみ、腕は震え、口さがない団員からは「棒がわからない」と文句を言われ、そしてとどめはセクハラ(=少年愛)の告発。これによってメトロポリタン歌劇場は解雇となり、泥沼の裁判争いとなりました(1点を除きすべてレヴァインの申し立ては却下されている)。長年連れ添ったスザンヌ・トムソンと昨年、結婚をしていたそうですが、最晩年の生活は孤独なものだったのではないかなと想像します。
私自身、欧米の音楽家何人かともこの件について話をしたことがありますが、あれはアウトだろう、というのが大方の見解だったと感じています。(言及すると面倒なことに巻き込まれるかもしれないから公式には黙っているけれど)そもそもあれは公然の秘密だった。といった感じ。「ホモセクシャルかどうかは関係ない。若者、ティーンである、という点がよくなかった」という言葉を何人かから聞きました。全くそのとおり。
権力者にすり寄ってのし上がろうとする若者がいるのはいつの時代でもそうだったでしょうし、積極的にすり寄って行った者もいたのかもしれない。しかしそれを食い物にするという構図はモラルとして認めていいものではない。私自身、子を持つ親ですから、そう思いますし、そう願います。
もちろん「あなた方のうち罪のないものだけが石を投げなさい」という言葉の通り、我々がいい気になって(安全な場所から)正義の拳を振り回すのはよくないし、告発が単なる中傷かそれとも事実なのか、ということについては注意深く見極めないといけない。けれども「昔はよかった」「芸術とは無関係なこと」あるいは「芸術とはそもそも不健全なもの」などという言葉で片付けるのもおそらく間違いでしょう。
ジェイムズ・レヴァインという名前は、栄光でもあり没落でもある。功績は認めつつも、そういう風に記憶されるのだと思います。将来おなじことが起こらぬよう、はっきりと改善されるべきですし、再発防止について常に誰もが自覚的であるべきだと思います。