富田心(ヴァイオリン)日本デビューツアー直前インタビュー

富田心(とみた・こころ)は2002年岡山生まれ。生後半年で両親とともに渡英しイギリスで育つ。名門メニューイン音楽院で学び、昨年からは海を渡ってドイツ、ベルリンのハンス・アイスラー音楽大学で勉強を続けている。

イギリスで開催されるBBCヤング・ミュージシャンの弦楽器部門で2020年、日本人史上初となる優勝を果たしたことで広くイギリス国内外から注目を浴びることとなり、今回の日本デビューにつながった。12月末に帰国、14日待機中(2022年1月9日現在)に、今回の来日のこと、デビューCDのことなど、メールにて尋ねてみた。

富田心日本デビューツアーの日程詳細はこちらからご確認下さい

BBCヤング・ミュージシャンとは?

― 「BBCヤング・ミュージシャン」の存在を知らない方もおられるかもしれません。どういうものか簡単に説明して頂けますか
イギリスではかなり有名なBBC主催の音楽コンクールです。18歳以下を対象に、5つの部門(弦楽器、鍵盤楽器、木管楽器、金管楽器、打楽器)に分かれて予選から本選まで行われ、それぞれの優勝者が決まります。最後に各部門の優勝者が協奏曲を弾き、その年のヤングミュージシャン・オブ・ザ・イヤーが選ばれます。セミファイナルから本選にかけては、BBCで全国放送されます。

― 優勝した瞬間のお気持ちはどんなものだったでしょうか。優勝のあとはなにか変化があったでしょうか
驚きの一言でした。その後、嬉しさが込み上げてきました。この時コメンテーターとして番組に出演されていた方からすぐにデビューアルバムのオファーを頂いたり、コロナ禍だったのにも関わらず、イギリス国内の音楽祭にたくさん呼んで頂いたりと、演奏の機会が飛躍的に増えました。今回の日本デビューツアーも、このBBCヤング・ミュージシャンがあったからだと思っています。

↓優勝を報じるBBCヤング・ミュージシャンの公式ツイート

現在はベルリンで勉学を続けている

― いまはロンドンを離れベルリンで勉強されていると伺いました。ベルリンでの生活について教えて下さい。いつからベルリンですか。なぜベルリンに行こうと決めたのでしょうか
2021年の3月からです。一番の理由は、師事したいと思った先生がベルリンにいらっしゃったからです(注:コーリャ・ブラッハーに現在師事している)。

2021年末、大阪のホテルで練習中

― どのようなレッスンをされる先生だと感じていますか
指示が的確でとても分かりやすいです。生徒のモチベーションを保ちつつも、必要な改善点を細かく指導してくれます。

― 英国とドイツとの違いは大きいですか。どういうところが違いますか
ドイツは言葉も含め全てがダイレクトではっきりしています。イギリスよりエコロジーへの関心が高いように感じます。また学生にとっては住みやすい国だと思います。たとえば交通費や学費がドイツではほぼ無料です。ただドイツで日曜日にスーパーやお店などが閉まるのはまだ慣れません。

英語は音楽家にとってアドバンテージ

― 日本語は得意ですか不得意だと感じていますか
日常会話は大丈夫ですが、普段あまり使わない読み書きは得意ではありません。また、正式な場での会話になると、ボキャブラリーが少ないため不自由に感じることもあります。

― 日本語と英語は大きく違うなと思いますか?あるとしたらどういうところですか
あります。英語はアルファベットしかないので、読み書きがもっとシンプルだと思います。言葉の意味を知らなくても、アルファベットの構造だけで読むことができます。あと、英語にもフォーマルな言葉遣いはありますが、日本語の敬語のような沢山の決まりはない気がします。

― 日本人は英語が苦手な人が非常に多いと感じていますが英語を話せること、細かなニュアンスが分かることというのはクラシック音楽の演奏家としてアドバンテージでしょうか、関係ないでしょうか?
世界で活躍したい場合は、英語を話せることはアドバンテージだと思います。特にヨーロッパではどの国に行っても、ほとんどの人が英語でコミュケーションができるので、音楽祭やマスタークラス、コンクールやコンサートなどの場などで、私にとってはとてもプラスになっています。実際、今はドイツに留学中ですが、英語もかなり使っています。

隔離施設での6日間

― 日本帰国されたのち、6日間待機がありました。どこに滞在されたのでしょうか
ホテル日航関西空港に滞在しました。母と一緒に二人部屋に滞在したので、セミダブルのベッドが2台あるかなり広い部屋に泊まることができました。

隔離先のホテルには大きな窓があり、窓も少し開けられた

― ご家族は同じ部屋になるというのは知りませんでした。一歩も外に出られないというのはどういう気分だったのでしょう
はじめは想像できませんでしたが、窓が大きくて、少しだけ開けられて、毎日きれいな空を見ることができたので、あまり辛くはありませんでした。14日間ずっとだとまた変わってくると思いますが。

― 14日はつらいみたいですね。掃除はないのですか。リネンやタオル類はどのように交換するのでしょうか
掃除はありませんでした。リネンはそのままで、タオルはそれぞれ大きなものは2セット、小さなものは4セットずつありました。

― 練習は出来ましたか。集中できましたか
他の人のことを考えて、ミュート(注:消音器)をつけて練習しました。意外にも集中できてビックリしました。

ミュートをつけてホテルで練習。ミュートがどこにあるかわかります?

― 食事はカップ麺みたいなものが出てくるところもあるときいたがどういうものでしたか。毎食違いましたか。年末年始特別な食べ物が出ましたか
食事は3食、ドアの外の椅子の上に届けられました。はじめの3日間は違うメニューで、3日目からまたはじめからのリピートでした。朝はパンやヨーグルトにフルーツ、昼は機内食のような食事にサラダとスープ、夜はお弁当にデザートもついてきました。ご飯は毎回温めてあったので、よかったです。年末年始も変わらず同じようなメニューでした。

ホテルでの一コマ

日本での初のツアーについて

― さて、今回は日本のオーケストラと初めての共演ですが、楽しみですか、緊張しますか。
日本のオーケストラは素晴らしいといろいろな人から聞いています。名フィルとメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を、都響とグラズノフのヴァイオリン協奏曲を弾かせて頂くのを今から楽しみにしています。

ホテルを出る前。このあとさらに8日の待機。

― リサイタルのプログラムはどのように決めましたか。
この春にリリースされるデビューアルバムの中から2曲、エネスクの小品、ラヴェルのソナタを選びました。そこに人気の高いチャイコフスキー《懐かしい土地の思い出》、快活なモーツァルトのソナタ、そして今回初挑戦となるグリーグのソナタ第3番を合わせています。

自分の、そしてクラシック音楽の将来について

― 今後どういった曲を勉強して行きたいですか。
ブラームスとショスタコーヴィチのバイオリン協奏曲に取り組むことをたのしみにしています。またソナタや室内楽の曲の種類も今後増やしていきたいです。

― 目標とする音楽家や偉人はおられますか
小さい頃からずっと、オランダのヴァイオリニスト、ジャニーヌ・ヤンセンさんに憧れていました。彼女のように人の心に響く、情熱的な演奏をしたいと思っています。

― 21世紀においてクラシック音楽の演奏家であるということはますます難しさを増しているのでしょうか
若い優れた音楽家もたくさんいて、技術も確実に上がってきていますので、その中で選ばれる人になるのはより難しくなってきていると思います。反対に、コンクールやコンサートもオンライン化が進んだことで、誰にでもチャンスが与えられ、より多くの方に聴いてもらえる機会も増えてきています。どんな形であれ、音楽を共有できることの素晴らしさを多くの人に感じてもらえるよう、音楽界を盛り上げていきたいと思っています。

― 英国やドイツではクラシック音楽離れを感じますか、そうでもありませんか
そうでもないと思います。ロックダウンの後、コンサートが再開されてからは、皆さん待っていました!とばかり、コンサートに駆けつけていました。

― クラシック音楽以外でよく聞く音楽がありますか
クラシック音楽以外では、ジャズやR&Bなどを聴きます。

― 日本でしか出来ないことで、今回体験したいと思っていることがありますか
食べ物に関しては、祖母の手料理をたくさん味わいたいです。生卵を海外ではあまり食べないので、新鮮で美味しい生卵をご飯やおうどんと一緒に食べてみたいです!

デビューCDについて

デビューCD「オリジンズ」(Orchid Classics)

― 生卵ばんざいですね。卵かけご飯専用の醤油とかも売ってるんでぜひ試してください。富田さんは英国のレーベルOrchid Classicsよりデビューアルバムもリリースされます。「オリジンズ」というタイトルです(タワー・レコードの紹介ページ、1月10日現在予約受付中)。そして今回のツアーに合わせ日本での先行発売が予定されています。CDの録音はどのような体験だったでしょうか
CDの録音は忘れられない貴重な体験になりました。なにもかもが初めてのことだったので、どんな感じになるのか全く想像がつきませんでしたが、録音チームの皆様が本当に素晴らしく、安心できる場を作ってサポートして下さったので、とても楽しく録音ができました。またぜひ挑戦したいです!

― CDに収録する曲は簡単に決まりましたか
CDに収録する曲は、私にとって特別でストーリー性がある曲ばかりなので、結構簡単に決まりました。たとえばエネスクの小品は私が8年間過ごしたメニューイン音楽院の創立者であり尊敬するユーディ・メニユーインの師ですし、フバイとラヴェルとの接点は、フバイが育てたヴァイオリニスト、イェリー・ダラーニにラヴェルがインスピレーションを受けている、といった具合です。

― ジャケット写真は簡単に決まりましたか
なかなかジャケット写真のイメージができず、撮影前後でイメージが変わったり、私の表情や写真全体のバランスなどに満足できるまでは、やはり時間がかかりました。しかし、素晴らしいカメラマンのおかげで、悔いのないいい写真を撮っていただくことができたと感じています。

CDのためのフォトセッション風景

富田心の日本ツアーは1月14日金曜日の名古屋フィルとの共演でスタートします。ツアー各公演の詳細およびチケットのご予約は以下ページからご覧ください。

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