印象に残るロンドンのサロンコンサート:その1

前にもブログで書いた様に、ロンドンはサロンコンサートが盛んだ。数が多いサロンの中でもとりわけ印象が強いのは音楽評論家でピアノの専門家であるブライス・モリソン氏のサロン。モリソン氏は王立音楽院で教授を歴任し、ゲザ・アンダ国際コンクールや香港、ナウムバーグなど数多くのピアノ国際コンクールの審査員を経験し、タイムズや音楽雑誌に演奏会批評やCD批評を長年に渡り描いてこられた人物である。

彼はワンおばちゃんのロンドンの住居と同じメリルボーン地区、ウィグモアホールから5分というところに住んでいる。ここは元ピアニストのポール・クロスリーが住んでいたところで、シュタインウェイのピアノごと譲り受けたアパートである。

さて、今までさんざんサロンコンサートには飲み物や食べ物、と書いて来たが、ここモリソン教授のサロンだけは例外だ。ピアノのある部屋は20畳もなく、ソファーとアームチェアーが二つずつに、小さなコーヒーテーブル。そこに家の中にある椅子、または椅子代わりに使える「座れる物」をとにかくかたっぱしからピアノの横に並べ、公称(モリソン氏の)によれば20名座れることになっているらしいが、いつもぎゅうぎゅう詰め込まれて30名近くが部屋の中にいる。いると書いたのは立ってたほうがマシなくらい最後は誰かのお尻とお尻にサンドイッチと言う始末なのである。

どうやってそれだけの人数を詰め込むのかと言うとまず、当日のピアニストがピアノの前に陣取りその近くにまずモリソン氏が椅子と自身が立てる場所を確保。その後、皆さんが入場。言うまでもなく、事前にお手洗いは皆さま済ませておくのが決まり。全員座ったところで赤ワインのボトルとプラスチックの使い捨ての小さなカップを重ねたものが手渡しで回される。30人で2本。それ以外は何も出ない。ワインが部屋のドアの入り口の最初の人に戻ったところでモリソン氏の解説が始まる。まずはその日の奏者の簡単な紹介。ピアニストも半畳ほどのスペースを椅子の前に確保しているので立ってお辞儀。

一曲ごとにブライス・モリソンの解説がついてプログラムが進んでいくのだが、よく作られたラジオ番組の様に、心地よい時間が瞬く間に過ぎていく。そして最後はQ&A。業界の人もチラホラとお見えになる非常にintenseな時間はまるで、10月に銀座ヤマハホールで開催したウストヴォリスカヤ個展のQ&Aを彷仏とさせる。

オクスフォード大学の英文学のある著名教授が、あまりにもぎゅうぎゅうと人を詰め込むこのサロンのことを“Shoe Horn concert”と名付けた。かれこれ10年以上続いていたこのシューホーンコンサートは、多くの若手に演奏の機会を与え、コンクール前のドライランの役割も果たし、あるときはピアニストのジョナサン・プロウライトのハイペリオンのレコーディング前の試し弾き、など大勢の人々に親しまれていたのだが、モリソン氏のパートナーがお亡くなりになったのが契機となり、中止となってしまった。

そこでワンおばちゃん登場。

モリソン氏を説得し、5年前に「シューホーン」と言う名前、そしてモリソン氏ごとMCSが引き継いで続けたのであった。会場は大英博物館の近くのプーシキンハウスに移動した。大きな違いは一つだけ。飲み物はシャンパンとカナッペ。そしてQ&Aの時にはまずアーティストに「いい演奏ありがとう!お疲れ様」の一杯が出されます。

今度はシューホーンを是非日本でも!