ニューヨークの音楽学校、ドビュッシーの《小さなくろんぼ》のレッスンおよび演奏を禁止

あるニューヨークの音楽学校が、ドビュッシーの愛らしい小品《小さなくろんぼ》および《ゴリウォーグのケークウォーク》のレッスンおよび演奏を禁じたそうです。まじですか。

報じているのはレブレヒトで、ソース元としては生徒に宛てて送られてきたというメールのスクリーンショット。これだけで事実かどうかを判断するのは良くないかもしれませんが、事実だとすると・・・・・どうなのでしょう。

https://slippedisc.com/2021/03/exclusive-new-york-college-bans-debussy-works/

《ちびくろサンボ》という絵本がありまして、それこそ私も子どものころ繰り返し繰り返し、わくわくしながら読みました。トラがバターになってしまうあたりとか最高ですやんか(考えてみればトラがバターになるというのはトラ虐待かもしれない)。出来上がるパンケーキが美味しそうで、食べてみたくてしょうがなかった。そういう個人的に思い出のある本ですが、世界的にいろいろと議論があったらしく、日本でも絶版、回収ということになりました。いまは再び販売されているようですが、そこでまた、いろいろと(著作権関係の)問題が起こっているようです。子どものころのピュアな気持ちを、返してくれよ!・・・経緯はWikipediaへどうぞ。

さて、《小さなくろんぼ》というタイトルを目にして、明らかに黒人蔑視である、と考える方もおられるでしょう。ドビュッシーがこの曲を書いたのは今から112年前の1909年のこと。「作曲当時はそういう意識はなかった」と強弁してみてもなかなか議論は平行線になるような気もいたします。なお今は《小さな黒人》という日本語表記に改められているケースも多いようです。

それではどんな曲なのか、フランス人ピアニスト、ジャン=エフラム・バヴゼの演奏でどうぞ:

《ゴリウォーグのケークウォーク》について、直接文字を見てわかる方は少ないと思いますが、ゴリウォーグは19世紀末に作られた黒人風のキャラクターで、いわばダッコちゃんみたいなもの(古い)。1970年代ぐらいから人種差別のシンボルとして認知されるようになり、やがて廃れていった。で、ケークウォークというのは黒人が発祥のダンス。20世紀初頭のパリで大受けしてたらしいんですよね。

白人のドビュッシーが、黒いキャラクターや黒人のリズムを用いた作品を書いたのが、そしてタイトルにそのものズバリの言葉を用いたのが問題、ということになりますか。

こちらはパリ国立高等音楽院で学んだチョ・ソンジンの演奏でどうぞ:

音楽学校から送られてきたというメール(一部しか読めないですが)を見ると、「時代遅れであり、差別的である」「幸いにしてピアノのレパートリーは膨大で他にも素晴らしい曲がたくさんある。トロンボーン奏者の自分は嫉妬します!」と書かれています。事実としてそりゃトロンボーンに比べてピアノ曲のレパートリーは膨大でしょうけれども、なぜこの二曲が選ばれたのか。目立つ曲だから?他にもヤバげなタイトルの曲が見つかり次第、じゃんじゃん禁止にしていくのか?

それこそ臭いものに蓋をしているだけで、歴史をなかったことにする修正主義的なことになりはしませんか。どうしてもということであれば、アガサ・クリスティの《そして誰もいなくなった》のようにタイトルを差し替える(オリジナルタイトルは”Ten Little Niggers”だった)、あるいは、脚注を付す(※現代では不適切とされる表現が用いられていますが、作品が作られた当時の・・・・云々)などで対応するのが適切なように思います。

「人類には差別の歴史が遠い過去より厳然とある、今もある。なくすことは極めて、極めて困難」という事実を知り、差別のない人類の未来を考えるためのツールとして用いるほうが遥かに建設的。この学校は大学ではなく若い子どもたちのための学校ということだそうなので、なおのことそう思いますが、現代アメリカの風潮はそれすら許さないのでしょうか。

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扇秋沙

ことにこの頃米国では政治が極端にあちこちに向いていますが、ドビュッシーもついにやられましたか。残念です。