譜めくりの極意

ひさしぶりに譜めくりをしてきました。

譜めくりは大変神経を使うお仕事です。譜めくり、誰でも出来るやろと思われるかもしれません。たしかに楽譜さえ読めれば誰にだって出来ることだと思います。しかし、めくり間違ったら被害は甚大、音楽が止まって全員の目がこっちを向くのだと思うと心底ゾッとする。

というわけで本日は譜めくりの極意をお伝えしたいと思う。以下は全て私の譜めくり実体験に基づいている。どうか参考にしてほしい。

(1)食べすぎない
譜めくりの最中に集中力が切れたらアウトである。どこを演奏しているかわからなくなったら悲惨だ。なので、食べすぎによる眠気とは絶対に距離を置かねばなるまい。譜めくりの前には可能であればパワーナップ(お昼寝)をとろう。

(2)前日はよく寝る
これも上に同様の理由だ。眠気から引き起こされる集中力の低下による事故が起こると、とりかえしのつかない被害がもたらされる。前日夜は早く寝ること。8時間、10時間、いや遅刻さえしなければ20時間寝たっていい。

(3)繰り返しを事前にチェック
楽譜に繰り返し記号があるかないか、ピアニストに聞こう。できればピアニストに楽譜を貸してもらおう。「演奏会直前に楽譜をお借りするなんて、そんな」と思われるかもしれないが、安心してほしい。断られることはない、むしろ積極的に貸してくれるから。彼らも不安なのだ「この人物はちゃんとめくれるのか?」「楽譜が読めるのか?」こちらから積極的に近づいて確認することで安心してもらおう。彼らの良い演奏のため不安材料を減らすに越したことはない。長い室内楽でも楽譜のチェックはせいぜい5分程度で住むことだ。

(4)スケルツォに要注意
スケルツォ楽章の繰り返しは複雑でトリッキー。絶対にチェックすべき。一カッコの戻り先がどこなのか、複数ページ戻るならどこに戻るのかしっかり確認しておきたい。メヌエットも複雑な繰り返しを持つことがあるが、メヌエットの場合はテンポが遅いので戻るとしても楽譜をめくらなくて済むか、めくったとしてもせいぜい1ページぐらいだろう。だがメヌエットでもトリオ(中間部)の後は要注意だ。トリオが終わると楽章の頭に戻るので、何枚めくらないといけないかをよく覚えておく必要がある。

(5)躊躇せずメモをする、メモは舞台に持ち込む
楽譜チェック中に「繰り返しが複雑で覚えられないかも」と思ったらためらわず、すぐさまメモをすることをおすすめする。例えば「1カッコのあと2枚戻る」「トリオの後は●●ページに戻る」などだ。「2ページ戻る」と書くと2枚なのか1枚なのか混乱する事があるので危険だ。「●枚」と書くのがおすすめだ。そしてそのメモをポケットに忍ばせ本番に臨むと良い。怖くなったらすぐにメモを取り出して確認が出来るし、いざとなればメモを手のひらに隠し持ったままめくることだって出来る(実際私はそうすることがある)。

お客様からメモが見えちゃうかも、とためらってはいけない。お客様は君のことは見ていないし、仮に見えたっていいんである。反対にメモをせずに「何ページ戻るんだっけ?」と本番中に思った時の絶望感を想像してほしい。めくり間違って音楽が止まってしまったら君に非難の視線が集中する。不安が1%でも残っていたら必ず、絶対にメモをしろ、そして本番の舞台に持ち込め!

(6)終楽章に気をつけろ!
スケルツォは無事に乗り切っただろうか。よくやった。でもまだ最後の大仕事が残っている。終楽章だ。ロンドかもしれないし、変奏曲かもしれない。でもなんてことだ、終楽章はページ数がやたら多いのだ。めくった直後にまたすぐにめくらないといけない、という事象が多発する。こちらも疲れてきて集中力が途切れがちだが楽譜になんとしても食らいつけ!

そして終楽章の一番のトラップは、突然現れる「冒頭に戻る」繰り返し記号である。開演前の楽譜チェックでしっかり確認しておこう。めくった直後左上に「冒頭に戻る」があったら悲惨だぞ。そして終楽章の冒頭は楽譜の何ページなのか、しっかりと憶えておきたい。覚えられないならやはりメモするべき。

(7)ピアニストを信じない
ピアニストに「この曲は繰り返しないから」と言われて安心してはいけない。必ず自分の目で楽譜を隅から隅まで確かめるべき。ピアニストは本番前は上の空であることもあるし、うっかり繰り返し記号があることを忘れて「この曲繰り返しないから。ひたすらめくってくれたらいいから」と言われることもある。信じてはいけない。安心して座っていて、突如繰り返し記号が見えた時の絶望感を想像してほしい。

(8)落ちたら目を見ろ!
「落ちる」(楽譜のどこを演奏しているかわからなくなる)、という状況は可能な限り避けなければならないが、人間だもの、落ちることもある。「うわっ、いまどこ!!」と思ったら即座にピアニストの目を見ろ。視線の先が演奏している場所だ。楽譜と何度も見比べて今どのあたりを走行しているか確認し、可及的速やかに復帰してほしい。落ち着け、パニックになるな。絶対に戻れるから!!

(9)完全に落ちたら、立つ
「落ち」て完全にわからなくなったら、高等テクニックだが、すぐに立ちあがってめくろうとしろ!ただしすぐにはめくるな!!早すぎたらピアニストから「まだだ!まだめくるな!」という合図がかならず来るから。その場合もいったん座ると言う愚行はおかしてはいけない。バツは悪かもしれないが、立って楽譜の端を持ったまま待て。「いまだ!」というピアニストからの合図が遠からず来る!(ピアニストは「めくって」という瞬間にうなずく事が多い)

いやはや、譜めくりとは、かく大変なお仕事なのである。それでもあなたは、めくりますか?

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HIROKO

はじめまして。譜めくりしていただく側の者です。ちょうど昨日ヴァイオリンとのコンサートで初めましての譜めくリストさんとご一緒したばかりでした。
私は譜めくりをお願いする事がとても多いのですが、訪れる先々で初めましての方にお世話になります。
そこで!お願いする側として楽譜には譜めくリストさん宛のメモ(「あと3回!」「ラスト!」など。繰り返しありなどはもちろん)をしっかり見えるように書いておきます。
事前の打ち合わせや、本番前に楽譜をお渡しして下見をしていただくのはもちろんですが、めくりやすい様にする配慮は必須だと思っています。
譜めくリストさんの緊張は結構伝わりますから、自分のためでもありますが、ひと時でも舞台をご一緒するのですから、出来るだけ気持ち良く過ごしていただきたいですものね。
私自身は幸運にも師事していた先生が室内楽も多くなさる方だったので、たくさん経験をさせていただきました。

長々とすみません。あまりにもタイムリーだったので書かせていただきました。