ウィーンフィル、帰国。オーストリアはロックダウンを強化。

ウィーンフィルが来日ツアー旅程を全て終了し、昨夜帰国の途についたそうです。ネットを見ますといろいろな反応がありますが「来てくれてありがとう」という声が多そうです。これで2週間以内に関係者、来客者に大きな感染がなければ「ヤレヤレなんとか無事に済んだ」と言ってよいのだと思います。現場の関係者のみなさまにはもうしばらくストレスのかかった状態が続くと思いますが、つつがなく開放されることを祈っております。お疲れさまでした。

オーストリアでは感染状況が改善せず、17日からとりあえず12月6日まで、ロックダウンがさらに強化されるそうです。

https://orf.at/corona/stories/3189798/
https://mainichi.jp/articles/20201115/k00/00m/030/020000c

日本も感染状況が思わしくないのは皆様もご承知のとおり。

ワンおばちゃんのミッドナイト情報収集によれば欧州では「ウィーンフィルの来日が世界的な音楽界全体に風穴を開けた、日本に行けばコンサートが出来る!いざ日本へ!」という受け止められ方をしているそうです。“You are lucky ! Europe has no live audiences at all until December and probably through to the end of the year.”

では今回のウィーンフィル来日が、他のオーケストラ来日ツアーに向けた布石となるのかというと、やはりそうではなく、特例ということで終わりそうに感じています。

クラシック音楽の来日ツアーにおいて、チャーター便を出し、ホテルで完全隔離3食付き、新幹線の車両をブロックして移動、といったことを実現出来る例はまずないでしょう。資金面での負担が大きすぎます。今回のツアーは収支でみれば(クラシック音楽業界的には)「想像を絶する赤字」ではないかと思いますが、スポンサーや主催者がそれを「広告宣伝費」などとして見るのであれば、それはそれでもちろんよいのだと思います。しかしこれは大企業だから出来たこと。多くのクラシック音楽のツアーは中小企業が担ってきたわけですが、そこに強力な資金はない。残念ながら大出血OK、赤字上等、というわけにはいかないのが現実です。

同じことが日本国に対して出来る可能性があるとすれば、あとはベルリン・フィルぐらいではないかと思います。日本における海外オーケストラの人気はまずウィーン・フィル、その次にベルリン・フィル、そのあと越えられぬ深い溝がずーーーーっとあって、コンセルトヘボウ?なの?とかそういう感じです。ウィーンとベルリンが「2大巨頭」です。これまで通りならば来年がベルリン・フィルの来日となるのかなと思っていますが、来年彼らは来日をするのでしょうか。

また今回の来日については、オーストリア首相から日本国首相に対して強い要望が出され、「文化交流」という目的で実現したことが明らかになっています。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020110400566&g=pol

であれば、日本側を代表する文化団体のツアーもオーストリア側で実施いただきたいと強く望みます。片方だけにお金を使わせて知らんぷりを決め込まれてはいけないと思います。交流とは、相互に行き来してはじめて交流というのではないですか。その交渉が政府間で進んでいることを望みます。

オーストリアを代表するオーケストラすなわちウィーンフィルに対応する日本の団体。たとえば日本を代表するオーケストラのオーストリア・ツアーを、チャーター便、隔離不要、公共交通機関利用OKで、買い取って実施していただきたいものです。オーケストラでなくとも、日本の伝統文化団体、たとえば歌舞伎、能楽、雅楽などの素晴らしい邦楽団体が存在しています。

これが実現してこそフェアだと思うのです。オーストリアの首相が動き、オーストリアの一団体が特例で来日し、お金を得て帰ったのだから、その逆もあって当然ではないか。コロナでオーストリアでは公演が出来ないということであれば、もう少し収まってからでいいと思うのです。

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伊藤幸子

ウイーンフィル 来てくれてありがとうございました。勢いのある演奏 心 震えました。

車両鉄

素朴な疑問なのですが、今回のツアーに関して日本側は国もそれなりの金銭的負担をしたんでしょうかね?もしそうなら筆者の主張(というか憤り?)も理解できますが、金銭的負担は主催のサントリーのみが負ったのなら、後半の日本からの文化団体も受け入れよ云々の主張はちょっと違うんじゃないかなと思います。特に「片方だけお金を使わせてしらんぷり」のくだりはアカンでしょう。
筆者は「業界」の方ということですので、日本が国として金銭負担をしたのかどうかぜひとも調べていただきたいです。結果、国としての金銭負担の事実が明らかになったのであれば、改めて「日本からも受け入れよ」の主張を展開していただきたいし、そういう事実がなかった場合は、すみません、きちんと謝罪・訂正してください。

元業界人

横から失礼します。
おそらく筆者が憤ろしく感じているのは、日墺両政府の金銭的負担の平等性ではなく、民間レベルの(言い換えればクラシック音楽業界での)著しい片貿易状態が今日に至るも解決されていないことではないかと推察します。
今回のツアーは、検疫制度の例外を特に許可してくれるように墺政府が日本政府に要請し、日本政府は外交的配慮から特例を認めた、という部分以外は、二つの私立団体間の契約に基づく商行為に過ぎません。日本側はサントリーホールというよりは、サントリーホールディングス株式会社であり、オーストリア側は、ウィーン・フィルという音楽家による自主運営団体(国立歌劇場管弦楽団ではない)で、両者の関係に国家レベルでの介入ないしは財政出動は起こりえない構図です。
これを日本側の演奏家がオーストリアにという図式に置き換えるとすれば、あくまで例えばですが、雅楽の研究演奏集団であり、演奏家の私的団体である(宮内庁雅楽部ではない)伶楽舎を、オーストリアを代表する酒類メーカーがチャーター機を飛ばし、列車を貸し切り、三食付き宿泊を負担し、それなりの出演料も払い、公演開催の赤字リスクも全て負って招聘してくれる、として、初めて今回のツアーの構図と釣り合うものになります。
ここまで書いてきて、自分でも情けなくなるほど、そんなことはぜーーーーったいに、起こりえないという現実があります。
車両鉄さんにぜひご理解いただきたいのは、この片貿易状態の矛盾を抱え込みながら、結局は自らもこの音楽を愛してしまっており、自らもその矛盾をむしろ補強するような仕事の仕方をしてしまったかもしれず、そうはいっても、クラシック音楽と呼ばれる芸術が、単なる博物館陳列物のような死んだ芸術ではない創造力も持っていることを現場で実感し、やっぱりこの音楽をなんとか支えなければ、と思って働いている、それなりの数の業界人たち(結婚できません、結婚しても共働き当然、こども作れません、家建ちません、老後に向けての貯金なんて一銭もありません、と言う人がゴロゴロいます)にとっても、今回のツアーが、忘れていたい傷口に塩を塗られたような痛みを感じさせる部分もある、ということなのです。昔はともかく、今は少しは片貿易じゃなくて、共同制作とか、合作とか相互協力とか、そういう事も出来るようになってるんじゃない?頑張ってきたし、なんて思っていることを吹っ飛ばしてくれた痛恨の一撃みたいなところもあるのです。
お金があれば、大抵のことが解決します。このツアーはその典型みたいなものです。でもそんなお金は日本のクラシック音楽業界では、あるところにしかないのです。
聴きに行ったお客さまたちの喜びの声は大きく、その気持ちも痛いほど分かるつもりです。自分もその場にいたら、絶対に泣き出しただろうと思います。
でも、もうひとりの、この仕事をしてきて、身も心も一度ならずボロボロになった自分は、別の意味で号泣しています。こんな思いにさいなまれるために、この人生あったのか、と。

筧美知子

よくぞここまで吐露して下さいましたね! 痛いほどお気持ちが伝わりました。論理的にも人をきちんと納得させていますし…。私だったらプラス日本政府の非文化性をぶちまけるところでした。こういう感覚を抱きつづけながら人はいきていくのだな、とも。

Pfüati Gott

ひとつ忘れてはならないことがあると思います。今回のツアーでチャーターされた飛行機は全日空。新幹線はもちろんJR。コロナで打撃を受けている日本企業にお金が回っているのです。ウィーンフィルは大名旅行をしましたが、その裏では儲かっている酒類メーカーが打撃を受けている日本企業に仕事を回したわけです。ウィーンフィルはギャラをもらうだけであり、彼らのメリットは活動できないオーストリアにいるよりかはよっぽどいいというところでしょう。普段から専属医がくっついて旅行し毎日PCRを歌劇場で実施し管理されている楽団だからこそできたツアーだと思います。なのでgotoキャンペーンを進める日本政府にとっても渡に船の話だったのではないでしょうか。

そがめ

演奏会、東京初日にうかがいました。
みんなアートパフォーマンスに飢えています。雷鳴のような拍手でした。ウィーンフィルは勇気をもって道を示してくれたと思っています。
どうやったら安全に開催できるかの検証をして欲しいです。アートパフォーマンスが共存できる世界であって欲しいです。
本当にソーシャルディスタンスしか方法はないのでしょうか。それしかないなら、科学的にそれしかない論証が欲しいです。科学万能の時代、そこに科学と人類の叡知をもっと投入してほしいです。

早乙女 千春

ウィーンフィル。結局のところ、厳密な感染防止策も抜け道があったらしい。
昼食は日本の粗末なお弁当、もしくはホテルランチ。あるいは「外」へ。夕食はサントリーの小ホールで行った模様。飲食の設備がないホールで。である。これは公演時間によるので致し方ないだろう。
ホテルはワンフロア貸し切り。とはいえ、完全隔離までは尊厳に関わる事もあってEVにさえ乗ってしまえば外へ出られる。ベッドメイクは毎日戦々恐々。
移動時の新幹線も然り。一回も用を足さないのか?といえば無理な話。車両間は移動させないものの、デッキへは何度も行ける。
そして生きているなら呼吸をする。彼らはマスクの習慣がない。「少しくらい」の一瞬で会話をする。笑いあう。食事をしながらオーバーアクション。当然、飛沫が飛ぶ。
港区周辺、九州、大阪、神奈川にはヨーロッパ由来のコロナ株が空気中に弾け飛んだ。そう思った関係者が複数いた。
堂々と来日出来るその時まで待てなかったのか?「今」である必要が本当にあったのか?疑問である。