アメリカ、バッファロー・フィルのコントラファゴット奏者マーサ・マルキエヴィチの楽器が盗まれたのは2016年。一般人が立ち入ることのできないホールの舞台裏の廊下から忽然と姿を消したのであった。彼女が1984年に入団して以来、30年以上使っていたいとしい楽器であった。
バッファロー、どこ?アメリカの地図、わからないっすよね。ナイアガラの滝のすぐ近く。右上です。なんか勝手にアメリカのまんなからへんっていうイメージがあったんですけど、ブブー、右上です。楽器が盗まれたホールはここ。ナイアガラの滝はそっから左上へ。そう、ちょっと行けばカナダ。1時間半も行けばトロントやぞ。いやあ、地図はいくら見ても見飽きないね。
コントラファゴットっていうと、赤茶色の長いパイプ、ファゴットのでかいバージョンです。どちらかというとUの字のような形をしていて、ボボボボボっていう魅力的な音を出します。
ケースを入れると重さは20キロを超える。そしてそのお値段はなんと36,000ドル(420万円ぐらい)するという、なかなかな楽器ですが、それを盗んで行くとはとてもふてえ野郎だ。彼女は泣く泣く、数カ月後に新しい楽器を購入した。
その楽器がしかし、ケースごと無傷で帰ってきたというお話。ケースに入っていたものは鉛筆を含めすべてそのまま、唯一違ったのはリードケースとリードだけ(ファゴットは口にリードをくわえて演奏する。リードは消耗品)。
ということは、使っていたということになりますね。使ってたんだよ。コントラファゴット使いの人が持ち去り、使わなくなったから、あるいは新しい楽器を買ったのかもしれないが、ともかく不要になって捨てたということですね。明確にそれが欲しくて盗んだということになる(当たり前といえば当たり前かもしれないが)。お金がなかったのだろうか。魔が差したのだろうか。両方だろうか。
犯人と犯行については許しがたいものの、こうして無事に見つかったという意味においては喜ばしいことだ。ただしマーサは既に昨年9月にバッファロー・フィルを退団しており、新しい楽器も売却していた。見つかったこの楽器についても、現在楽器を所有(保管?)している保険会社に送られることになる。あらためてこの楽器を自分のものにしようという意思はないという。
自分が引退したのは若い人たちのためのスペースが必要だと思ってのことだとマーサは言っている。「自分がオーケストラで演奏していたときの喜びを若い演奏家たちにあじわってほしい。素晴らしい職業なんですから」