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サー・アンドラーシュ・シフの発言が物議

サー・アンドラーシュ・シフがバッハの平均律全曲演奏会をウィーン楽友協会で行ったようです。先週日曜、そして昨夜。

そして終演後にトークイベントが実施され、その中でシフは聴衆がコンサート中に移動すること、つまり退場することに関して怒りを表明した、これが物議を醸しています。

https://slippedisc.com/2022/06/andras-schiff-loses-it-over-toilet-breaks/

演奏中に聴衆が勝手に席を立って退場するのはいけないことか?

難しい問題だなと思いますね。現在においてクラシック音楽は静かに集中して聴くもの、というイメージがあります。またコンサート中に人が席を立って退場すると、できるだけ目立たないようにしようとしてもある程度以上目立つことであり、音もどうしたって出ます。そしてコンサート中に退場しなければならない状況は確実に起こりえます。コンサートが予想していたより長くて時間がなくなった、トイレにいきたくなった、咳がとまらない、退屈した、ほか理由は様々あるでしょう。

そしてこの夜演奏されていたのがバッハの平均律クラヴィア曲集第2巻であること、しかもシフは休憩無しですべてを通して演奏していた(本人の希望で)、ここもまたポイント。

この曲集を通して演奏するとどれだけかかるか。人によって長さは変わりますが、シフの場合140分かかったそうです。140分椅子に座りっぱなしというのはかなりきつい。いや、映画だって140分以上あるのいっぱいあるよねと思うかもしれませんけれど、映画は音だけではなくて、視覚でも楽しめるので、それほど苦行と思えることはありません(その映画が全く気に入らない、ということなら苦痛かもしれませんけれど)。

オペラなんかでももっとずっと長いワーグナーやなんかがありますが、この場合でも80分とかでほぼ確実に休憩は入ります(もちろん例外もあってワーグナーの《ラインの黄金》はおよそ2時間半休憩なし)。

またピアノというのは映画やオーケストラなんかとくらべて、言葉は悪いかもしれませんが遥かにモノトーンで単調です。特にバッハの作品は。あれは耳の快楽!と思う人もいる一方で、長くて退屈と感じる人もいる。どちらかというと後者の人数が多いと私には思える。そしてバッハはこの曲集を全曲通して演奏するなんていうことを全く意図していなかっただろうということもまたポイントとしてあります。それを言い出すと、そもそもピアノで演奏することが間違っている、という方向にも進んでいきますけれど。

これらをいろいろと考えますと、あらかじめこのコンサートは休憩なし、と書かれていたようですが、それでも、途中で退出する人がいてもしょうがないのではないでしょうか。

レブレヒトのコメント欄を見ますと、シフの自己満足、エリート主義、とはいえシフのバッハは最高だぜ、という意見が多いように感じられますが、さて、みなさんはどうお考えになりますか。