イゴール・レヴィットが先週、5月30日土曜日から31日日曜の早朝にかけて、1人で、ライブで、ネット中継でサティのヴェクサシオン(1ページの曲を840回だけ繰り返す作品)を弾くという話はこの業界の中でさざなみのように広がっていきました。うおーまじですか、すごいすごい、観るで、みたいなコメントも目にいたしました。
20時間とアナウンスされていましたが、実際には休憩をはさみつつ総延長15時間ぐらいだったそうです。では、実際に全部みた、という猛者はどれほど居られますでしょう。なお私はすいません、トータルで3分ぐらいしかみておりません。わたしが見たとき、テンポはだいぶ早かったです。そしてけっこうグダグダというか、本人楽しくなさそうで、苦痛そうでありました。
譜面台に置かれた楽譜分厚っ。840枚あらかじめコピーして譜面台に置いておき、それを1回演奏するたびにポイポイ投げ捨てていくスタイル。これならカウントミスも防げるね!!
譜面台の反対側にはスナックが置かれていて、すぐ側のテーブルがミニバー。スナックを時々口にしたり、ドリンクを飲んだりしたのであろう。ほとんど見てないからわからないけど。手が滑ってドリンクがピアノの中にバシャしたらどうするのであろうか。疲労で意識が朦朧とすることもあるかもしれないけれど。・・・いいよ、それもまたチャンス・オペレーションだ(テキトー)。
脱線しますけど、演奏中に楽譜をポイポイ床に投げ落としていくっていうのは日本ではあまりお行儀がよろしくないと考えられますが、実際のコンサートの最中にポイポイと楽譜を投げ捨てて行く欧米の演奏家って、わりといます。日本人が感じるような罪悪感?のようなものはないのでしょう。人類は多様だ。
さて、私が見たのは日本時間の朝7時ごろ、つまりドイツの時間の午後2時にはじめてから10時間ぐらい経過していたあたり。本人はしんどそうに見えましたし、音はぼろぼろ間違えてました。いやーやっぱりしんどいんやろうなあと思って、そっとパソコンを閉じました。日本の音楽家、音楽ファンの皆様方におかれましては、俺もやろう!とかそういう決意をなさらぬことをおすすめいたします。なにより二番煎じになっちゃうしね。
演奏後の本人のインタビュー載っていましたよ(ニューヨーク・タイムズ紙)。
‘I Just Let Myself Go’: Igor Levit on Surviving a Satie Marathon
https://www.nytimes.com/2020/05/31/arts/music/igor-levit-vexations.html
気になる方は全文をニューヨーク・タイムズ紙に行ってお読みいただくとして、いくつかおもしろコメントを引用しますとこんな感じ。
準備はいつから始めたの?
「3、4週間前さ。練習なんかは全くしなかった。うちでちょっと弾いてみたけど、そのときはプレッシャーもなかったし、実際にやってみたら・・・・正直飽きたね。これを演奏することだけには意味はないね。」
演奏していないときは何してた?
「おしっこだね。きたなくてごめん。水を飲みまくってたんだよ。5.5リットルは飲んだと思う。中断しなくちゃいけなかったのは申し訳なく思っている。俺は休憩時間って好きじゃないんだよね。休憩なしで演奏出来たらいいっていつも思っているんだけど。」
「途中、いまどのへんかなとふと考えたんだよ。まだ590ページもあるのかいったい何なんだ?この気持を乗り越えるのに30分くらいかかった。もうダメだとかは思わなかったけれど、イライラしたね。」
というわけで、おつかれさまでした。本人がYouTubeに動画をアップしているので、よろしければどうぞ。BGMとして流すのではなく、ドキュメンタリー映像として、ちゃんと映像もみながら、苦しみに共感しながらお楽しみいただくのがいいのかな、という風に思います。
なお、ソラブジ作品とかジェフスキの《道》とか、いわゆる「激長」の作品を今後やってみるかもしれない的なほのめかしもありましたので、ファンの方はゆるく淡くご期待ください。