パシュチェンコがそのゼネラルマネージメントに所属してから、メキメキとキャリアを積んでいくのをみて本人よりもリュビモフの方が驚いてしまったと言う位、パシュチェンコはあちこちの大ホールや著名オーケストラで大活躍。
CDも出るはアムステルダムの音楽院の最年少の教授に就任、ピリオド楽器によるショパン・コンクールやブルージュの国際コンクール等の審査員に就任。あれよあれよと言う間に頭角を表して、すっかりコンサート・アーチストになってしまった。
リュビモフ門下でコンサートで一番活躍している彼女の躍進を見たリュビモフは、それ以降、自分の教え子たちをゼネラル・マネージメントに託さねばと思ったらしい。アレクセイ・ズーエフもいっとき名の通った事務所に所属し、イギリスで著名オーケストラとの共演など随分と大活躍だった。彼の場合は自分の師と同じく「自由」の価値が勝ってしまった様で早々、「僕のやりたい事はこれだ」と言わんがばかりにアダムスの初演や、ストラヴィンスキーのピアノ曲全曲録音やリサイタル等、やりたい放題やりたいことをやり、音楽事務所を去ったのである。
ズーエフは言った「僕にとって自由である事が一番重要で、束縛されてまで一流のオケと舞台で弾こうとは思わない。もっともそれはその経験をさせてもらったからかもしれないけれど。ありがたかったけれども、辛かった」 そういうわけで順風満帆のパシュチェンコを招聘したくとも、MCSの様な小さな団体ではなかなか難しい。ラブコールをするのにも、オファーするものが、そもそもあまりにも小さい。リュビモフにダメと言われればこれは声を掛ける事すら叶わず諦めていた。 しかし、不思議なことに、ずっと呼びたい呼びたいと諦めずに思い続けていれば、気持ちが通じることがある。 昨年リュビモフから突然電話がかかってきて「数日以内に、待ち人来たる」「どういう意味ですか?それは」「とにかく待っていればわかるから」「気になるから教えてくださいよ」「グッドニュースは待っていればいいのです。おとなしく待っていればグッドニュースが来ます」……..
リュビモフの待っていれば良い“グッドニュース”はて?それは何ぞやと思いつつ、待てど暮らせど何も起きない!「アレクセイ・ボリソヴィッチ、一体何が起きるのでしょうか?」「そのうち連絡が来るから…..」
それから3日後、突然パシュチェンコからメールが来た。 最初のチラシには4年越しのラブコールと書いたが、言い出してから7年であった。 とうとう本人からメール! 自分の願いが届き、念願叶ったと思ったのもつかの間、 台湾に演奏旅行に行くので、韓国との間に数日間あるので、ちょっと日本にということであったが、先ず自分のマネージメントと話してくれと言うのである。
さて、さて、どこのマネージメントだろう。おや、まああ……. 超大物のいるブティック・エージェンシー。これはこれは大変。どうやって話せばいいのかしら。嘗て、今をときめくある音楽家を無名時代に契約していたのにも関わらず超大手の事務所のロースターに載った途端に業界のドンの様な 社長が出てきて、いきなりキャンセルされてしまったと言う手痛い経験をしたので、これもいい夢をちょっとだだけ見せてもらったのだなとなんだか一瞬だけ、めちゃくちゃ嬉しくなり、後はシュンとなって悲しくなってしまった。ちょっと前まで業界で1番売れまくっているピアニストの1人、それに超引っ張りだこの指揮者。これじゃ無理だろう。 演奏家本人が来たいと言う事があっても、事務所がダメと言う事の方が多く、売れっ子の場合は特にリップサービスだと思っていてもおかしくないと言う事は多々ある。 今度は、パシュチェンコの方から 「マネージメントと連絡してくれましたか?」と何度かメールが来た。恐る恐る連絡を取り合ってみると、何度もメールを行き来しているうちに、この業界に30年近くいた人の様でお互いに共通の知り合いがこんなに大勢いるのかという具合になり、まっ取り敢えず“やってみっか”的にサロンコンサートと言うことになった。
さすがリュビモフの一番弟子と言われるだけのことはあって、音楽に対する姿勢がそっくり。 ファッションモデルのような写真と彼女の音楽が全く想像がつかない。なるほどリュビモフが後継者と言う感覚を持つのがよく理解出来た。 画して小さな3公演 1924年のベヒシュタインで蒲御園教会 日比谷のベヒシュタインセントラムでは、平行弦の1860年代ベヒシュタインとフォルテピアノにモダンベヒシュタイン。 横浜の横山ピアノクリニックでは、故イエルク・デームス所有のオールドブリュトナーと今のブリュットナーのフルコンに珍しいデームスし所有のイタリアの楽器タローネ。 同じプログラムをいろんな楽器を使って弾き分ける。古典からリゲティ迄、リュビモフを彷彿として何だか、今からとっても楽しみ…….そうだ何が似ているって言っても、リュビモフのコンサートを企画制作する時と全く同じゾクゾク感がある。 結局解った事は、実は自分ですら認識していなかったのだけれども、コンサートの成功も、主催招聘元/企画する側にこのゾクゾク感があるかないか、そこに尽きるとワンおばちゃんは思います。
オルガ・パシチェンコ新譜「誰の無言歌?~フェリックス&ファニー・メンデルスゾーン:ピアノ作品集」2月下旬発売
日本公演でいち早く披露、会場にてサイン付きCD販売あり
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