日本とヨーロッパのサロンコンサートの違いはなんでしょうか?一番大きな違いと思われる3点を、ここで並べてみましょう。
(1)お客様
日本の場合は、出演者のお知り合いやご家族、およびそのまたお知り合いが中心。ヨーロッパの場合は、主催者の関係者が中心になっています。したがって会場のお客様のほとんどの方が演奏者と個人的な関係にない場合が多いです。一般の方も多くおられます。すなわちお客様同士初めて顔を合わせる場合が多く、自己紹介をはじめとして「紹介」という行為がサロンのあちこちで行われます。
外国人は日本人よりいわゆるconversationというのに慣れている。訳せばただの「会話」となるのだが「話術」と言うのは、今日この場で初めて会った人と自然な形で相手のプライバシーに突っ込まず、個人的なところまでは立ち入らず、そのボーダーあたりの心地よいところで線を引きつつ、なお面白い話を成立させるすべのことです。良い会話というものは1+1=2ではなくそれ以上に楽しみを膨らましてくれ、その日の音楽をもっと盛りたててくれるのです。
(2)飲み物
日本の場合のサロンコンサートでは飲み物や食べ物が出てもコンサートの終わりのほうに集中する場合が多い。休憩時間に出ることも場合によってはあるけれど、多くの日本の主催者は「ウェルカムドリンク」と言う形でコンサート前にリラックスムードを作り上げると言うことに関してはあまり積極的ではないように思われます。
反対にヨーロッパでは、特に予算が限られている場合はウェルカムドリンクだけ、と言うことの方が多い。その場合遅れてきた人には飲み物が出ないので、みな時間通りに集まるようになります。飲み物の終了がコンサートの開始と同時に終了するのでコストを抑えられると言う利点も大いにあります。
いわゆる正式なSoirée musicale だと、ウェルカムドリンクに始まり休憩時間のドリンク。そして終わったらワインにカナッペ。必ずどこかでシャンパンも出てくる。もしシャンパンを出さない場合はスパークリング・ワイン。それとノン・アルコール・ドリンカーズのための飲み物。コンサート終了後はビュッフェと言う形でお食事と言う場合もある。会員組織の場合は会員だけウェルカムドリンクと言うよりはプレコンサートレセプションと言うものもある場合があって、サービスのやり方はそれぞれ種々あるのです。
(3)プログラム
ヨーロッパでは、明らかに絶対商業ベースには乗らないものは最初からサロンコンサートでという形で開催という場合があります。そういう場合は、サロンなのに空気がコンサートと言う雰囲気になります。良い例が、手前味噌になりますが、この10月にヤマハホールのサロンで開かれたリュビモフとアンドリアーノフの「ウストヴォリスカヤの個展」です。
またトークが入る場合や、若手を紹介するようなプログラムの場合は断トツ、サロンが多くなります。トークがメインのイベントの場合、飲み物やおつまみが供される場合が多く、書かれていなくてもサロンコンサートに近い形で楽しまれています。
特にトーク付きの場合は出演者もさることながら、講師のスピーカーにいろいろな質問が出て大変面白く楽しい雰囲気になっています。ヨーロッパの場合これはサロンのほうがいいね、これはホールでと分けて考えられる傾向もあります。
これとは別にDRY RUN と言うものもあります。今年5月の「頑張れググニン」のような、チャイコフスキーコンクールの前の試し弾き的な壮行会コンサート。こういったものはほとんどサロンコンサートです。海外ツアー前とかウィグモアホールのように大事なコンサートの前のDRY RUNなどもサロンコンサートとして開かれるので、本当に一概にサロンコンサートと言って一括りにはできないのです。その事自体がいかに文化として生活の中に溶け込んでいるかと言うことを証明しているのではないでしょうか。
日本にもこういう音楽の楽しみ方を定着させたいものです。
上の写真はワンおばちゃんと秘書クリスチーナのロンドン時代のサロンコンサートで出されていた手料理です。