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返ってこない2億5千万円のヴァイオリン。7週目に突入。

アレクサンドラ・コヌノヴァはモルドバ共和国のヴァイオリニスト。モルドバといえば国旗がルーマニアにそっくりなことを憶えておこう。今日のクイズに出るよ。コヌノヴァは2015年のチャイコフスキー国際コンクールで3位に入賞している。初来日は不肖私めが言い出しっぺで、シモノフ指揮モスクワ・フィルのソリストとして来日していただきました。

そのコヌノヴァさんが大変なことになったというのはだいぶ前に読んでいたと思っていたんですが、解決したと勝手に思っていたところがまだだと昨日知りました。なんとつらい。ヴァイオリンをキシナウ空港(モルドバの首都)で没収されちゃったんですよ。10月22日に。それからずっと戻って来てないらしいんですよ。

https://www.thestrad.com/news/violinist-alexandra-conunova-creates-petition-demanding-return-of-her-guadagnini-violin/14131.article

ヴァイオリンが国際空港で引っかかるというのは、ない話ではない。むしろ時々聞く話です。なぜかと言うに、弦楽器類はおっそろしく高価なので、盗品、密輸の疑いがかけられやすいんですよ。そのため皆さん(全員が全員でもないのかもしれませんが)この楽器はなんたらかんたらで、かくかくしかじかで、この人物に長期貸与されているもので(高すぎて個人では買えない事が多い)、持ち歩いているのは悪いことするためじゃないですからよろしく、という文書を必ず携行するわけです。もちろん楽器は保険にも入っていて、車に乗るときはトランクに入れたらだめ、とかそういう条件があったりするんですよ(ま、いっか、といってトランクに入れた人もいるけど)。

そうやって書類を持ち歩いていてもなお、空港で引っかかって召し上げられてしまう不幸があるのは実におそろしい。しかしコヌノヴァの場合は確か大統領だか誰だかが謝罪して返還へみたいな流れになってたんでは?と思いながら昨日のストラド誌(上のURL)を読んでいましたら、現実は7週間が経過した今なお、戻ってきていない。コヌノヴァの楽器は1785年ぐらいにイタリアの名匠グァダニーニが製作した「イダ・レヴィン」(←特に有名な楽器にはこうして愛称がつけられることがあります)、価値はおよそ200万ユーロつまり2億5千万円ぐらいです。豪邸が買えるぐらい。

人気ヴァイオリニストはほぼほぼ毎週コンサートがあるだろうし、どうやって凌いでいるのか。読んでみますと、新たに楽器を借り、スケジュールを変更し(これは書類仕事とか、弁護士とのやり取りとか、関係機関に出向くとかそういう煩雑なことをしなければならないからでしょう)、など様々な障害が発生しているとのことです。楽器の持ち主もご立腹?のようで、もしかすると無事に戻ってきても楽器を持ち主に返還しなければならないことになるかも、みたいな事になっていると。

ことの発端は、空港で提出した書類(モルドヴァの?弦楽器製作者が作成)に、誤って「この楽器はモルドヴァにとって歴史的な、価値があるもの」とかそういう一文があるのを空港の検査官が見つけたからだそうで、これによって盗品か密輸か、みたいな判断がされたようなのです。

さらには大々的に捜索が開始され、ヴァイオリンの専門家が呼ばれて鑑定された結果、その人物とやらがこれはストラディバリウスだと断定したらしく、事態はますますややこしくなった。連鎖する不幸。

いろいろ手を尽くしているがまだ返ってこないんで、オンラインでの署名活動も始めた。いまこのブログ書いてる現在1600人強が署名している。

問題の早期解決を望みたい。そして国際的に旅行される弦楽器奏者の皆様は、このようなことを可能な限り避けるため自衛の策を講じられるか、誤解を生むような文が書面に紛れていないか、今一度ご自身がお持ちの書類をご確認されることをおすすめしたい。