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トーマス・クヴァストホフの最新インタビュー

トーマス・クヴァストホフはドイツのバス・バリトン歌手です。いや、いまタイプミスで「ナス・バリトン」って書いちゃって書き直したんですけど、ナス・バリトンってなんなの。それなりにつややかでいい声がしそうなだけに困る。

2012年に引退していますんでもしかすると若い方はご存じないかもしれません。クヴァストホフはサリドマイド児として生まれたというハンディキャップがあります。ミュンヘン国際コンクールで優勝、審査員のフィッシャー=ディースカウからも絶賛され、キャリアを築いて行った。引退の理由は体調不良と言われていたんですが、英国ガーディアン紙のインタビューがおととい出まして、引退の引き金となったのは、お兄様の病気(肺がん)と死だったそうです。兄の余命は9ヶ月と宣告を受け、3日間文字通り声が出なくなったのだそうです。ただ、もともと早く引退したいと思っていたし、クラシック音楽業界の不毛さ、堅苦しさも感じていたとも語っている。

さてこのガーディアンのインタビューがなかなか考えさせられたので、一部訳してご紹介したい。

https://www.theguardian.com/music/2021/aug/17/thomas-quasthoff-from-birth-my-mum-felt-guilty-i-had-to-show-her-i-made-the-best-of-my-life

身長は1m35cmしかなく、腕も脚も短く、指は7本しかない。「私がステージに登場したら誰がそれを無視できるだろうか」。しかし、リサイタルで口を開けば、観客がそれを忘れることを願っていた。

音楽の勉強がしたかったのだが、大学では楽器が弾けないからダメだと言われた。そこで個人的に歌を勉強することにした。重要なのはネガティブなことが起きているかどうかではなく、それにどう対処し、その状況から何を得るかである。

10年半以上にわたって学び、キャリアを積んできたが、彼を突き動かしてきたのはある大きな動機だった。「私が生まれたときから母は(サリドマイドを服用したことに)罪の意識を感じていた。『その必要はない』と私がいくら言っても母はきかなかった。なので私は母に、私の人生と才能を最大限に活かした姿を見せたいと思った」

声がもどってきてからクヴァストホフはクラシック音楽の世界を離れ、ジャズに転向した。引退前からジャズをいつも楽しんでいて、ジャズのアルバムも2007年にリリースしていた。「歌い方が違うのでほとんどやっていなかったが、いまではマイクという新しい楽器を習得した。とても気に入っている」。カルテットの一員であることは、親密でプレッシャーもなく、素晴らしくリラックスした音楽の姿だと感じている。

そして今年のエジンバラ音楽祭ではカルテットでジャズを歌い、講師として、そして《ナクソス島のアリアドネ》に出演する。ただし、語り手役だ。

かつてパルシファルでは最初の打ち合わせで演出家が私に何が出来るか尋ねたので「自分を裸にすること以外なら何でもやると言った。そういったのには2つの理由があって、1つは私が望んでいないから、そしてもうひとつは観客が瞬く間に帰ってしまうことを望んでいないから」

オペラの場合、自分の見た目が聴衆の関心を惹きつけてしまうかもしれないことが心配だったが、リートのリサイタルの場合はそのような心配はなかった。リート歌手は最高の役者でなければならないと彼は言う。「今のひとたちにはそれが欠けていると思う。キャラクターよりも音色の美しさが優先されてしまっている。小さな情景を表現や色彩で埋めていかなければならない。オペラの場合は衣装や舞台セットなどでそれらを隠すことが出来る」

クラシックの世界に戻ってくる気はない。エコー賞を6回、グラミー賞を3回受賞した。「私が証明すべきものはもうなにもない」。

「私は障碍があったアーティストとして認められたかった。アーティストでもあった障碍者としてではなく」

トーマス・クヴァストホフ・カルテットの映像:

楽しそうや。