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【訃報】イヴリー・ギトリス(1922-2020)、ヴァイオニスト。

訃報が続きます。イスラエルの、ヴァイオリンの鬼才、いや鬼才の中の鬼才イヴリー・ギトリスがパリにて昨日お亡くなりになりました。98歳。この写真は96歳のときのものだそうです。左は言わずとしれた大天才ピアニスト、アルゲリッチ。

日本語でもニュースになっているし、皆様すでにご存知かと思いますので、ここでは個人的な思い出でも書いてみたいと思います。

紀尾井ホールでのリサイタル、2017年5月でした。聞かせていただきました(ピアノはイタマール・ゴラン)。素晴らしい演奏会だったのを思い出します。もちろん、純粋に演奏だけをみれば「もう全然弾けていない」というレベルのものでしたが、ご本人が演奏の合間にひょうひょうとしたトークをし、超寒いオヤジギャグをカッ飛ばしたりして会場が氷点下に下がるなど、雰囲気は終始温かく(どっちやねん)、ホールは最後まで笑顔に包まれていました。終演後の客席の反応も最高で、これほどまでに幸せなコンサート体験はなかったと私は断言いたします。

このときのチラシ、ポスターの写真がまた素晴らしく、勝手に以下に貼ってしまいますが、これこそが究極のチラシの姿であると信じています(なんか頭の中ではもうすこし引き気味のショットの画像を記憶していたんですが、記憶とはあてになりませんね)。一人のアーティストの、魅力的過ぎる写真がある。たったそれだけでチケットが売れる。私は普段から過剰なまでにパワーワードを駆使したチラシを作っていますが、目指している最終目的地はこういうものなんですよ。

この写真、よく見たらおわかりになると思いますが、ヴァイオリンの先にヴァイオリンをおく「フカフカのやつ」が置いてあるんですよ。執念を感じますね。その後、招聘元テンポプリモの社長中村さんから「ギトリスのリサイタルをしませんか」と打診を受けた時、一にも二にもなく承諾したのはこの体験が大きい。残念ながらその公演は、来日直前に本人の体調不安により延期&中止となってしまい、その後来日はついに果たされることはありませんでした。

もちろん古くからヴァイオリン界のレジェンドとして広く知られていたし、私がブリュッセルに住んでいたころも息子のロックバンドにいきなりゲスト出演してヴァイオリンを弾いたとかいう噂もあり「あの爺さんやばいよ!」という会話があったのを憶えております(褒め言葉です)。およそ15、6年前、すでにギトリスは「やばい老人」だったのだ。

数年前に福岡で、人気ギタリストのラファエル・アギーレと一緒にタクシーに乗っていた時、ラジオから流れていたベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を聞きながら「これ誰の演奏だと思うか」と演奏者のあてっこをして、うーんユニークな演奏だ、これは最近の人ではないな、なんて話をしていたら演奏はギトリスだった。二人で妙に納得したことも憶えています。

普段は大変シニカルなノーマン・レブレヒトも、自身のブログのコメント欄で「泣いてる」と書いていたり、メナヘム・プレスラーやスティーヴン・イッサーリスもコメント欄に書き込みをしているので、このニュースの衝撃度がわかるというものではないでしょうか。

https://slippedisc.com/2020/12/miserable-news-ivry-has-died/

https://slippedisc.com/2020/12/tributes-to-the-unforgettable-ivry-gitlis-who-died-today/

ありがとうございました。今日は一日、YouTubeでギトリスの音源漁って過ごすわ。まずはパガニーニから。