この程来日する指揮者/ピアニスト、ミカエル・ロポネンに1時間にわたり、色々と聞いてみた。
━━指揮の勉強は一体いつから?
15歳の時、ヨルマ・パヌラのマスタークラスを友人達と一緒に見学してみました。何度か聴講しているうちに、自分もちょっとという気持ちになり、受講者として参加してみました。 何かABCみたいに決まり事を教えてもらってからということになるのかと思っていたら、いきなり「さあオーケストラの前に立って指揮を見せてもらおう」とパヌラに背中を押される。
一番最初からオーケストラと対峙する。これがフィンランドの指揮のレッスンの“事始め”です。最初は毎週聴講し、1月に1度の割合で自分自身が受講者として指揮台に立ちました。それが1月に2回そして毎週のようになり18歳まで個人レッスンと言うよりは、マスタークラスだけで何とか指揮をやってみたいと続けていたのです。
不思議なことに、指揮を学んでいると言う感覚ではなく、音楽に取り組んでいると言う気持ちで“教わっている、学んでいる”と言うよりは“音楽をしている“と言う気持ちになり、ピアノを弾くのと指揮をするのが自分の中で同じように思えて、よくあなたはピアニストそれとも指揮者を目指しているのですかと聞かれると困ってしまうのです。よくピアニストをやっていて、指揮者になりたいという人もいます。自分の場合はピアノがいつの間にか指揮になっていったけれども、ピアノに戻ってくるのでは無く、離れたこともないのです。
フィンランドでは最初の数年間はほとんどの場合、個人レッスンで指揮を学ぶということは余りありません。それよりも、この様なマスタークラスと言う形をとって、実際オーケストラの前で振りながら学ぶのです。
━━フィンランドに於ける指揮のレッスン事情を教えて下さい。例えばレッスン代とか……
ヨルマ・パヌラのパヌラ・アカデミーは、政府機関が関わっている団体ではないので、金額は結構張るというのが実情ですが 何回か受講者として参加していくうちに(受講が許されるならばですが)各省庁、地方自治体や、慈善団体などの奨学金や補助金を申請して何とか継続する様皆努力するのです。補助金が無ければ、僕はやっぱりきつかったかもしれません。
ここはフィンランド人だけではなく世界各国から集まってきます。アカデミーのレッスンは常に学生や卒業生などからなるオケを前に「実践」こそが本当の学びという考えが根底にある様です。我が国ではシベリウス・アカデミー以外には指揮科はありません。つまり指揮を学ぶ為にはシベリウス音楽院に入学するしかないのです。ですが毎年合格するのは1~3人迄。多い時は150人ぐらいの応募があります。
━━貴方は将来音楽家として何をしたいですか? どのような道を生きたいですか?
僕にとって自分の音楽の基軸は室内楽であり、まずもって何をしていても自分は室内楽という空間から離れる事はない。
よく指揮者になったらもうピアノや元やっていた楽器はやらないという人が多いが、自分はピアノは続けていきたい。指揮をする事が楽器を弾くこととは違う事だと思う人が多いのですが、私にとっては同じ事なのです。自分はそういう指揮者でありたいし、室内楽の機会を大切にしたいと思っています。オペラ歌手達とコレペティのようなこともしています。昨年はオペラでサカリ・オラモのアシスタントも勤めましたが、歌い手に率直な感想を述べると、そこに新しい発見があり、とても楽しいものでした。