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《業界人突撃インタビュー第10弾》 CDの物流ならおまかせ!東京エムプラス代表取締役社長 鈴木健介氏【後半】

この投稿は鈴木健介氏インタビュー後半です。前半はこちらからお読みください

不良品が海外から届いたらどうなる

―やっぱりコロナで遅れるているんですね。こんなところにもコロナの影響が・・・・・。壊れているCDが届くこともあると思いますがどれぐらい発生しますか。

鈴木:毎回ほとんど破損が見られず完璧に入荷してくるレーベルもあれば、毎回大量にケースが破損しているレーベルもあるなど、千差万別です。これは各レーベルが使用している倉庫の保管状況やそこで働くスタッフの質にも大きく左右されるのだと思います。

誤入荷に関しても同じで、毎回完璧なレーベルもあれば、毎回必ずインボイスと誤差が発生するレーベルもあります。数十枚単位で注文していないCDが届くことも珍しくありません。非常に手間ですが、この場合、毎回修正を依頼しています。

―破損の場合は送り返し&再出荷依頼ですか?ケースにヒビとかその程度によっては日本で直して売ったほうがいい、とかもあるのでしょうか。

鈴木:プラケースの極僅かなヒビ程度であれば、当社で交換してシュリンクし直すということもあります。明らかにレーベル側での破損、つまりブックレットやインレイカードの破れ、ディスク破損などの場合は再出荷を依頼します。ディジパックを含む外装のダメージの場合はレーベル出荷前の破損なのか、輸送中の破損なのか判断が付かないケースも多いので、保険でカバーするという場合もあります。

―送り返すのではなく再出荷なんですね。もめないといいですね。でもそのへんはおたがいになんとなく理解し合えるのかもしれないと思いますが。店頭のポップもお作りになるのでしょうか。キャッチコピーの作成とかはやっぱ頭がいたいですか。

鈴木:はい、弊社の場合、店頭のポップや大中小様々なサイズのパネルは全て社内でスタッフがデザイン、作成を行っています。デザイン、キャッチコピーの作成、パネルの製作を社内で完結できるのも弊社の強みの1つであると自負しています。これは本当にスタッフがよく頑張ってくれています。

キャッチコピーは難しいですよね。弊社の方針として可能な限り分かりやすく、そしてシンプルに、ということを心がけています

―キャッチコピーはほんとに毎日が勉強です。本当です。これは売れる!とかそういうカンとかはありますかそしてそれは当たったりしますか。

巣鴨、Mプラスが入っているオフィスビル

鈴木:直感で勝負を賭けたものが大当たりすることもありますし、大外れすることもあります。

毎週、毎月、海外から膨大な数のサンプル盤が届くのですが、基本的に全てを聴くようにしています。

データで送られてくる新譜情報でおおよその反響は掴めるのですが、ノーマークだったタイトルを改めて聴いてみると「これはヒットする!」というように印象が180度変わることも珍しくありません。逆にアーティストのネームバリューだけで判断すると思ったほど伸びないということもあります。

CDはやはりアーティスト、レーベルが丹精込めて作った言わば芸術品ですから「聴いて向き合う」という姿勢は今後も大事にしたいと思っています。

―個人的に気になっているレーベル、好きなレーベル、好きなアーティスト、これからくるかもと思うアーティストとかありますでしょうか?

鈴木:優等生的な回答としては取り扱っている全てのレーベル、アーティストがお気に入り、としたほうがよいでしょうか(笑)私は吹奏楽、管楽器出身ですので、入社当初、興味があるジャンルについても非常に偏りがありました。バス・トロンボーンがブリブリ鳴っているオケ物以外は興味が無いという(苦笑)。ピアノが大の苦手だったこともあり、バイアスがかかっていたということもありました。

この考え方や偏りを変えてくれたのは、シプリアン・カツァリスの「イン・メモリアム・ショパン ~ ショパン没後150周年記念(Piano21/P21003/残念ながら廃盤)」でした。

趣向が偏りまくっている私の様子を見かねた他のスタッフが試聴を薦めてくれたのですが、聴いた習慣にカミナリに打たれた様な感覚を覚えました。好き放題やっているのに全く破綻しない、それに何よりも音色が美しい。ピアノはこんなにも楽しいものなのか、というカルチャーショックを受けました。

マルク=アンドレ・アムランの「リスト:パガニーニ大練習曲」(Hyperion/CDA67370)や「カプースチン:ピアノ作品集Vol.2」(Hyperion/CDA67433)、そして少し前に出たアンスネスとのデュオによる2台ピアノ版「ストラヴィンスキー:春の祭典」(Hyperion/CDA68189)もお気に入りです。Chandosからリリースされているバリー・ダグラスの「ケルティック・リフレクションズ」(Chandos/CHAN10821)、「ケルティック・エアーズ」(Chandos/CHAN10934)はピアノファンだけでなく、ケルト音楽ファンの皆様にも是非ともお聴きいただきたい逸品だと思います。また、個人的にイチオシなのが数年前に一部でヒット作となった「ヴィークルンド:ピアノ協奏曲集」(Hyperion/CDA67828)です。ヒロイックな作風が本当にカッコよい作品なので是非とも聴いていただきたいです。

ーかしこまりました!全部HMVですけどリンク貼っておきました!

鈴木:若手アーティストでは、イギリスのア・カペラ・グループ、マリアン・コンソート(Delphian)、ジェズアルド・シックス(Hyperion)、ウクライナ出身のピアニスト、アンナ・フェドロヴァ(Channel Classics)、イギリスのヴァイオリニスト、タムシン・ウェイリー=コーエン(Signum)、オランダのヴァイオリニスト、ロザンネ・フィリッペンス(Channel Classics)、フランスのピアニスト、ジュリアン・ブロカル(Rubicon)、ポーランドのピリオド系鍵盤楽器奏者トマシュ・リッテルやクシシュトフ・クションジェク(いずれもNIFC)、古楽アンサンブルの「アルカンジェロ」(Hyperion)など、スター候補の名前が続々と頭に浮かんできます。まだまだ書き足りないくらいです。

ーもうおなかいっぱ・・・いえ、まだまだ、鬼の千本ノック続けてお願いします!!

すでに欧州では有名ですが、ピアノのパヴェル・コレスニコフとアンドレイ・ググニン・・・、招聘元はMCSさんですね。なんでググニン「選手」なんですか?

―んー、んー・・・??

鈴木:ググニンはHyperionのイチオシ、同じくピアニストのフェデリコ・コッリはChandosのイチオシアーティストです。古楽系ヴァイオリニストでは共にポッジャー門下のヨハネス・プラムゾーラ―(Audax)、ボヤン・チチッチ(Delphian)が目覚ましい活躍を見せてくれています。

あとは忘れてはいけない英国の2大合唱団、タリス・スコラーズとザ・シックスティーンの存在感は絶大です(小声:ぜひザ・シックスティーン招聘して下さい。現地担当者を紹介します)。数年前にアムステルダムのムジークヘボウでザ・シックスティーンと18世紀オーケストラの共演を聴いたのですが、そこで演奏されたモーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」が衝撃的な美しさでした。冒頭のAveの「ア」の響きで泣きました。

―いやそれさすがに早すぎるでしょ。ウサイン・ボルトもドドンパも顔面蒼白、マッツァオですね。

鈴木:周囲のお客さんは変なアジア人がいると思ったでしょうね(笑)

ジャケ買いはいまでもあるのか

―私の息子は方程式がよくわからないらしくて最近毎日泣いています。ところで、ジャケットは売れ行きに関係があると思いますか。ジャケ買いっていう言葉はいまでもあるのでしょうか。お気に入りのジャケットがあれば宣伝を兼ねてご紹介下さい。

鈴木:10~20年前は今ほど影響は無かったと思のですが、近年はジャケットのデザインが非常に売上に関係してきます。クラシックCDでもジャケ買いをするお客様がいるというお話をお店の方からよくお聞きします。

―えー!それは面白い!ワクワク。

1点に絞るのは難しいのですが、やはりHyperionのジャケットデザインや選定方法は創業当初からポリシーが一貫しているので私は素晴らしいと思います。山根さんは苦手なんでしたっけ?

―あー・・・・ちょっと苦手かも。すぐにあああれねって思い浮かぶっていう意味では素晴らしいと思います。演奏者のルックスは売れ行きに関係がありますか。これはノーコメントでしょうか。

鈴木:これは難しい質問(苦笑)。あると言えばありますし、無いと言えば無いというグレーな答えになりますでしょうか・・・。

以前、若手奏者を中心とした女性ヴァイオリニスト特集を色々な店舗で開催したことがあります。ジャケットには基本的にアーティストの写真が使われているものを選び、販促用のチラシも作成したのですが、これが非常によく売れました。演奏はもちろんのこと、ジャケ買いをするお客様がいたとのことですので、やはり売れ行きには少なからず関係がある、のかもしれません。

日本ではバッハが売れる

―なるほどやっぱりルックス、大事ですね・・・・・。ああ、かわいそうなヨーゼフ・アントン・・・・。あいつオルガンばっかり弾いて身なりに構わないから・・・。赤いハリネズミでも話題になってるんだよね、変なズボンが。

「よくわからないがこういうものが売れる」とかいうのはありますでしょうか。

鈴木:日本ではやはりJ.S.バッハの売れ行きが圧倒的です。バッハ神話というくらい日本人はバッハが好きですね。特に「ゴルトベルク変奏曲」や「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ」、「無伴奏チェロ組曲」などの主要作品は売上が安定しています。また最近はオンラインストアを中心に編曲もの(これまた特にバッハ)が良く売れますね。数年前に「ゴルトベルク変奏曲」の合唱版(COBRA Records/COBRA0050)が出たのですが、予想を遥かに超えるヒットになりました。

―まじすか。日本人は合唱版ゴルドベルクが大好き、と。メモメモ。ヘンデルもっと買ってくれよ。

鈴木:反面、オルガンの録音の販売は非常に難しいです。これは趣味嗜好というより、欧米と日本との宗教、生活環境の違いが大きな要因だと思います。向こうは教会でオルガンが身近にありますが、こちらは寺社ですから。

―オルガンは難しい、これはよくわかりますね。でもヨーロッパでもなかなかオルガンは難しい、と理解してますけれどどうなんでしょうか。サン=サーンスがオルガン弾いたら毎週すげー人だかりが、とかもう100年以上前の時代の話ですし。

鈴木:やはり売れるものには必ず理由があると思います。演奏が素晴らしいのは当然ですが、アーティストの人気度、企画性、エピソード、パッケージの仕上がり具合等々・・・。その「理由」を見つけてお店やユーザーの皆様にしっかりとお伝えするのも我々の大事な仕事だと思っています。

―レコード(ヴァイナル)は復権していると思いますか。

鈴木:初出音源や貴重な放送音源、いわゆるヒストリカル録音のLPよく売れていると聞きます(当社ではほとんどこのジャンルの取り扱いが無いので正確なことは分かりませんが)。

新録音(いわゆる今現在活躍しているアーティスト)のLP、特にCDとの同時発売のタイトルはなかなか厳しいものがあります。特定のタイトルに関して敢えてCDは出さずにLPのみをリリースするという戦略を採るレーベルも出てきましたね。ジャズに限って言えば新録音のLPも安定的に動きます。ジャンルによって傾向が違ってくるというのが現状かと思います。

昔のLPユーザーと現在のLPユーザーは違うとも言われていますが、ジャンルにこだわらず新品、中古を含めたLP全体で見れば復権傾向と言えるような気はします。

―興味深い・・・・。ダウンロード販売とかストリーミングは売れるのでしょうか、お金がチャリンチャリンと入ってくる打ち出の小槌ですか?

鈴木:ヨーロッパのレーベルと話をすると必ず話題になるのですが、ストリーミングは全くビジネス、お金にならないと皆、口を揃えて嘆いています。先日もヴァイオリニストのタスミン・リトルが「6か月間、500万~600万ストリーミングでGBP12.34の収益」という衝撃的な事実と共にCDを購入してほしい、とTwitterでコメントしていた覚えがあります。レーベル側にとってストリーミングはお金を稼ぐ手段ではなく、プロモーションツールとして割り切っているようです。

―なるほど、厳しいですね。

鈴木:そしてヨーロッパではダウンロードの売上は年々低下していると聞きました。これは間違いなくストリーミングの普及の影響ですよね。ただし、Hyperionなどサブスクに音源を提供していないレーベルは全く傾向が異なるようです。

おもしろエピソードが聞きたい

―いやはや、普段知らないいろいろな話をお聞きすることができ、大変興味深かったです!!感謝いたします!!

ところで鈴木さんは部長だと思ってたんですがいつの間にか社長に・・・。いつからですか。社長業はどうですか。経営を考えるのは大変ですよね。

鈴木:前任者が諸事情で急遽退任することになり、清水の舞台から飛び降りる覚悟で昨年の10月に就任しました。実質、今期が社長1年生なのですが、いきなり新型コロナ禍で苦境に立たされるという、なかなか経験できない状況に置かれています(苦笑)。この苦境を何としても乗り切れるよう、打開策を考えて打ち出していくのが最初の大仕事であると割り切ることにしました。

現在はまだ選手兼監督のような立場、業務内容なのですが、見える景色はガラリと変わりました。やはりスタッフの生活がかかっていますし、何としてもその基盤を守らねばという責任を感じます。外出自粛とストレス(?)とビールでかなり太りました。今、頑張って絞っています(笑)

スタッフは正社員が私を含めて6名で、アルバイトスタッフにも加わってもらいながら業務を回しています。

有難いことに就任前後から新規の取引先(レーベル)が順調に増えています。これらの新規レーベルとも少しでも早く確固たる関係を築き、素晴らしい作品を続々と日本に紹介していければと思います。

―ぜひこれからもおもしろいCDをおしえてください!!せっかくなんで仕事での「おもしろエピソード」をいくつか教えて下さい。

鈴木:あまり面白いエピソードがないんですけど・・・。

―いやいや、みなさんそうおっしゃるんですがね、掘りおこせば必ず出てくるんですよ。ここに出しちゃダメっていう内容がバカスカ出てくることもありますよ(※そういうのは掲載自粛してます。一人で楽しんじゃってごめん)。

鈴木:おそらく同業他社さんは同じかと思うのですが、取材のセッティングと実施は非常に気を使いますし、ビッグネームになればなるほどドタキャンになるのではないか、とハラハラします。

以前、ある有名アーティストの取材を組むことが出来たのですが「東北某所でのコンサートのホール入り直後ならば30分くらい対応できる」ということになり、インタビュアー、カメラマン、編集者とチームを組んで前日に現地入りしました。しかし待てども事前に送付した質問項目(インタビュー時の資料となるもの)の答えが戻ってこず・・・夜中の2~3時頃やっと届きました。当日も本当に実施できるのかと半信半疑でハラハラものでしたが、無事に終了。本当に安堵したのを懐かしく覚えています。

―なるほど綱渡りですね。綱渡りハラハラしますよねー。私も綱渡り何度か体験したことがありますが、本当に心臓に悪い。

鈴木:あと駆け出しのころ、ドビュッシーの「アッシャー家の崩壊」の邦題や登場人物名を豪快に間違えたものをそのまま日本語オビに掲載してしまったことがあったのです。間違いに気が付かずそのまま出荷してしまい、某音楽雑誌のレビューページで当然の如く「お粗末極まりない、猛省を求めたい」と酷評されました。これには本当に凹みましたし、今後は絶対に同じ間違いはしない、という教訓になりました。

―誤表記は他人事ではないですね・・・。ちょっと違う話かもしれないんですが、「赤子の手をひねる」って書こうと思って「赤子をひねる」って書いちゃって一斉にツッコミを受けたことがあります。アムランのちらしです。申し訳ありませんでした。猛省いたします。

鈴木:猛省の結果も出してくださいね。

入社当時は今と比べて「非常に」個性的なお店の店主やスタッフの方が多かったです。若気の至りではありませんが、よくバチバチと火花を散らしました。ただ、そういった方ほど、やりあっていくうちに充実した関係に発展していくんですよね。いつの間にか信頼関係が生まれると言いますか。最近では名物店員も少なくなってしまいましたが、今も各地で奮闘されている店主、店員の皆さんと少しでも業界を活性化できたら、と常に試行錯誤しています。

―長くやってこられたからこそのコメント。こちらの気持ちも引き締まります。ありがとうございました!

最後に、よろしければなんでも思いの丈を宣伝、シャウトなどして下さい。

鈴木:CDバブルが弾けて以降、業界の低迷が叫ばれて久しいですが、ヨーロッパでは売上の低下が下げ止まりし、前年比で上向いてきたという話しを聞くことが増えてきました(今年は残念ながら新型コロナ禍でどこも大変です)。もちろんお店の数や規模も含めて全盛期の勢いに戻すことは困難ですが、私はアーティストが存在し続ける限り、多少のフォーマットの変化はあるかもしれませんが「CD」というメディア媒体は今後も生き残り続けていくと思っています。

他のジャンルは別かもしれませんが、クラシックでアーティストがCDではなくUSBメモリやダウンロードカードなどをプロモーションも兼ねて会場で販売する光景が想像できますか?クラシックの客層ともリンクしないでしょうし、特に日本ではCDが根強く生き残り続けていくのではないでしょうか。もちろんその規模がどうなるかは分かりませんが。

メジャーレベルの衰退や、インディペンデント・レーベル内での格差の明確化、大型チェーン店や名物店の倒産、コンサート会場での即売の活性化など、この10~20年間で日本を含む世界全体で様々な変化がありました。この先も想像の斜め上を行くような変化や出来事が多々発生すると思いますが、現在の新型コロナ禍を乗り切り、業界活性化の一翼を担うことができるよう、皆様と連携しながら全力で頑張りたいと思います。

―ありがとうございました!!これからもどうぞよろしくお願いいたします。

(了)

東京Mプラス公式サイト:
http://www.tokyo-m-plus.co.jp/

=インタビュー前半はこちらから=

https://mcsya.org/interview-with-kensuke-suzuki-1/