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業界人突撃インタビュー《第6弾》 作曲家 権代敦彦氏【前半】

作曲家とはいったいどういう存在なのだろうか

作曲家の方々との接点はたくさんある、と言えるほどではない。せいぜい大学で一柳慧氏の授業を受けたことがあるとか、金子仁美氏の和声のクラスで低空飛行をしていたとかその程度のレベルである。なので、はっきりって彼らの生態系は秘密のベールに包まれているのである。

なんつって。

当代日本を代表する作曲家のお一人、権代敦彦(ごんだい・あつひこ)氏と外苑前にあるハンバーガーショップで待ち合わせたのは梅雨入りが発表された日のことだった。権代敦彦氏は、お会いした回数は多くはないが、いつもどうやら気だるそうであり、お召しになっているお洋服も、あるときは真っ赤なジャケツであったり、ネクタイの柄入りのTシャツだったりと、自由である。さすがである。

そこで私もこのたび、負けてはいけないと対抗心を無駄に燃やし、ひつじが全面的に描かれた生成りのTシャーツにジーンズ姿で出かけることとした。「こんちは」とわたしが言ったとき特に反応はなかったけれども、心のなかではきっとやられたと思ったに違いない。大勝利だ。・・・5分ほどのち、私はアイス・カフェラテー、権代氏はレモンスカッシュを手に、ごきげんな会話が開始されたのであった。

そういうわけで、どちらかと言えば作曲者とか作曲家とかをよく知らない初心者の方にもお楽しみいただけるのではないかと勝手に思っている権代敦彦氏インタビューを以下よりお読み下さい。

◎権代氏のプロフィールとか作品とか最近の活動とかはショット・ミュージックなんかをご覧下さい:
https://www.schottjapan.com/composer/gondai/bio.html

なお、権代氏の最新作は今週金曜日(19日)20時開演の、サントリーホールのチェンバーミュージックガーデン(オンライン有料ライブ配信)で初演されることになっていますので、今回のインタビューはそれに関する内容も多めに含んでいることをご理解くださいませ。

これは《Post Festum》と第された10分ほどの、3曲から構成される作品です。オンラインだけ(オンデマンドなし)で聴くことができます。オンデマンドなしっていうのはつまり、その時間にしか聴けないっていうことです。このコンサートが気になっちゃった方は以下からお調べ下さい。

◎サントリーホールの公式ページ:
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20200619_S_6.html

◎チケット購入のページ:
http://suntoryhall.pia.jp/ticket/pls06.jsp

じゃあ、っつって14時から16時過ぎまでケタケタケタエヘラエヘラと笑いながらのインタビューを、いや途中からはむしろ単なる飲み会を終えたのち、ラッシュアワーになる前に帰らなきゃって言って、私はいそいそとその場を後にした。雨風は強く、渋谷駅から乗った井の頭線は大混雑であった。

・ ・ ・ ・ ・ 

●・・・・で、オルガンを弾いていたと。

――そう、オルガン弾いてた。今はほとんど弾いてないんだけど。一番本格的にやっていたのはカトリック初台教会。あそこで首席オルガニストをずっとやってたんだよね。

オルガンは桐朋の副科で始めたんだよね。鈴木雅明さんが桐朋で教え始めたときで、僕がその最初の生徒。すごく面白かったよね。ご存知の通り桐朋にはオルガンがないから、毎週あちこちのガルニエを弾きに、ドライブがてら連れていってもらってね。鈴木さんがとにかくガルニエが大好きでね。当時は浅草橋教会とか、聖路加病院とかそういうとこだね。毎回場所を変えて、生徒は3、4人で。すごく楽しかったしすごくおもしろかった。

最新作ポスト・フェストゥムについて

●それでは今週サントリーホールで辻彩奈さんが全曲初演される曲についてお尋ねいたします。タイトルは《Post Festum》ですね。カナで書くならポスト・フェストゥムですか。無伴奏作品ですね。

辻彩奈氏と。3曲目の初演後に。会場はティアラこうとう(2019年11月30日)辻彩奈氏のFacebookページよりKAJIMOTOの許可を得て転載。

――《Post Festum》ってつまり「宴のあと」。「後の祭り」ていう表現が正しいっていう人もいますけれど、そもそもは、オーケストラの協奏曲の後に弾くアンコールピースを、という辻彩奈さんからの依頼を受けて作曲したんです。

言ってみれば、協奏曲っていう大きなお祭りのあとで、その余韻のなかで余韻にひたりながら、でもただ浸るだけでなくっていう感じの作品です。全部で3曲あるんですけど「この曲はこの協奏曲の後に」っていうなんとなくのイメージもあって、それは楽譜にもメモとして書いてあります。

例えば1曲目はベルクとか武満徹のあとがいいんじゃないかとか、2曲目はエスニックな感じなんでバルトークとかプロコフィエフとかの後、3曲目はたしかスタンダードなところでチャイコフスキーとかシベリウスとか、いまはっきり覚えてないんですけど、そういう感じでイメージを持ちつつ、その曲のあとにうまく続くようなものとしてイメージしています。

音の流れとか、モチーフとかも意識しつつ、もちろんあからさまに引用なんてことはしてないけど、何となく似たような雰囲気をもちつつ別の次元に連れて行く。例えば1つ目について言えば、ベルク(の「ヴァイオリン協奏曲」)はああいう形で、コラールで終わって行く。武満(の「遠い呼び声の彼方へ!」)も最後、高いですよね、それをさらに上へともっていく、というイメージでしょうかね。

そんなわけで3曲をまとめて弾く必要はないっていうか、むしろ単独で弾いてもらうための曲なんですよ。もちろん3曲続けて弾いてもいいようにもなっていますけれど。1曲あたり5分ぐらいか、もう少し短い感じですね。あんまり長いとオーケストラを待たせちゃいますしね。

●この曲のテンポっていうのは厳密に決まっていますか。メトロノームで指定があるんでしょうか。

――あります。時間管理に関して私はうるさい方だと思っています。音楽は「時間を切り取ること」だと思っていますから、時間に関しては勝手なことをされるのは許せません。

●解釈についてはどうですか。解釈は演奏家の自由だから、という方と、必ずこう弾かれるべき、という方とかいろいろあるようですけれど。

――時間以外に関しての解釈はそこまででもないですね。それでも、勝手なイメージを持たれるよりはできるだけ厳密にやりたい。グレーゾーンは作らない、ただし言葉には頼らずに。疑いのないような、共通の理解を得られるような感じで厳密に書こうと努めています。

●それでも演奏家によっては全然違う弾き方をするかたもおられると思うんですが。

――基本的にどういう風にできているかというのは理解してほしいですね。作る方としてはこう作ってますよ、というのがあるので、そこは理解してほしいなと。

●では録音や初演のときに、こうしてああしてといろいろ口を出すほうですか。

――言う場合もあるかな・・・。3パターンなんですよ。まずは言ってなんとかなる人。その次は、箸にも棒にもかからない人。これはね、もう諦めて黙ってるっていう。あとは何も言わなくても分かってくれる人。この3パターンなんですよね。

●何度かやってみてだめだと思ったらもう黙っているっていうのは北野武監督みたいですね。それが一番怖いってやつですね。辻さんはどうですか。

――辻さんは頭がとてもいいですよね。言えばちゃんとはね返ってくる。すぐ理解して、そしてそれをすぐ実現できるテクニックも持っている、こないだリハーサルをしてそれがはっきり分かりました。

彼女、すでに3つめの曲だけは何回か弾いてくれてるんだよね。2回聴きました。最初はプロコフィエフの1番、シティフィルの後で、それから2月に大フィルで、あれもプロコフィエフだったかな(注:プロコフィエフの2番)。それぞれその後に3つめの曲を弾いてくれた。

弾く前には立ち会ってリハーサルをやりましたよ。随分前ですけどね。で、今回は1と2の初演だから、サントリーでリハーサルに立ち会ってきました。

最近若いヴァイオリニストたくさんいて、名前をおぼえきれないほどですよね。去年、ヴァイオリン協奏曲を書こうとしていて、いろいろな人の演奏を集中的に聞いてたんだけど・・・辻さんの良さっていうのは音に信念、自信、確信があるところですよね。特に強く共感を持っている時の自信に満ちた演奏っていうのはものすごいですよね。

●19日は会場(サントリーホール ブルーローズ)で立ち会われるのですか。

――いえいえ。おうちで聴きますよ。

あの曲はそもそも大ホールで演奏されるものだと思っているんですよ。オーケストラとの共演の後にね。大空間に一人きり、という状態で弾いてほしいんです。そういうイメージで書いたので、インターネットで聴くっていうのはそもそも意図したこととは真逆ですよね。

それはどうなのと思う一方で、でもそれもこの曲の運命だから仕方ないという思いもあります。願わくば大ホールで聞いてほしかったというのはあるんですけど、今回についてはともかくこの状況にあって、受け入れざるを得ませんね。まあ(大ホールは)いずれ、ですね。

それにね、曲が書かれた後、どういう初演をされるのか、そしてその曲の運命はそのあとどうなっていくのかっていうのはもう、流れというかそういうのに任せるしかないですよ。

●ちなみにどんな曲の後に弾いてもいいんでしょうか。ロンカプ(サン=サーンス作曲『ロンド・カプリチオーソ』)のあとに弾きます、とか。

――もちろん何の後だっていいですよ。パガニーニの後とかでも。なんでもオッケーです。

●聴けばわかるとは思うんですが、この3曲っていうのは技巧的な作品ですか。

――いちおうそれも意図してます。いわゆる見せ場はそれぞれの曲にあります。

3分なら3分で言いつくす。自分はなんでも全部言いつくしたいと思っている性格なので。だから、この曲はこれだけ、という感じで1つの事に限定して、白なら白、黒なら黒で。色をまぜないっていうんですか、それは心がけました。それは自分へのエチュードでもありますしね。そしてこれはとっても面白い作業なんです。自分の性格からしてもフィットすることだし。

●作曲には時間がかかりましたか。

――そうね、この曲はものすごく時間をかけました。

●自分比で。

――自分比で。1つにつき数週間以上、1ヶ月以上かかってますよ。

●5分弱に1ヶ月以上!!

知り合いのヴァイオリニストに何回も試奏してもらって、この指使いはどうだとか、このポジションはどうだ、そういうのを何回もね、試してもらって。それで書いていった。

作曲はどのようにされているのでしょうか

●ある楽器について深く知りたいと思ったらいろいろな人に尋ねに行くんでしょうか。

――そうですね。ヴァイオリンは自分も下手ながら弾けるけれど、わからない楽器もありますよね。いまお琴の曲を書いていますけど、初演していただく演奏家とやりとりしていますね。「これできますか」って聞くと、こういう事が出来ますよって映像で返してくれますね。

●映像だとわかりやすいですね。邦楽の作品も五線紙で書かれるのでしょうか。

――そうです。邦楽器の方もいまはみんな五線紙読めますし。邦楽器も若い人たちがいっぱい出てきています。積極的に我々の作品も演奏してくれますから、とてもありがたいなと思っています。

●むかし武満徹が、若い邦楽の人の演奏が五線紙風に聴こえる、みたいに嘆いていたのをどっかで読んだ気がするんですけれどそういうのはいかがでしょう。

――うんあったね。・・・でも五線紙は本当に万能だと思いますよね。あれ以上に表現について記録をつけられるものはないかな。本当に素晴らしいとつくづく思いますね。ほとんどのことが記譜できると思う。ありとあらゆる特殊奏法まで。うん。

●いつも何時ぐらいに作曲しているんですか。

――いまはちゃんと昼型ですよ。あるときから変わりました。それは目のせい。視力。もう夜に、電気の下では書けなくなちゃった。いまだに僕は全部手書きしてますし。だからいまは日の出から日没まで。

●ってことは、夏はちょっと長くなる。

――はははそう。原則そうしてます。

●今日は何時に起きましたか?

――8時。

●うわ、めっちゃ健康的や。今日も帰ったらまた作曲ですね?

――うーん、今日はもういいかな。やめとこう。ビール飲みませんか。ここのビールおいしいよ。

●もうちょっとだけ真面目にお願いします。いや飲みながらでもいいんですけど。

=後半は以下からお読み下さい=

https://mcsya.org/interview-with-atsuhiko-gondai-2/