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業界人突撃インタビュー第7弾、ミュージックショップ グッディーズ経営大西隆氏【後半】

この投稿は大西隆氏インタビューの後半です。前半はこちらからお読み下さい

生演奏か、録音か?

●ではここからは話をすこし変えまして、、、、大西さんは生演奏か録音かと言われたらどちらがお好きですか

――いやこれは全く別物です。ライブと録音は全く違います。共通するものがないわけではないですけれども、個人的には、あえていえば録音物が好きなんですよ。レコードが好きとかではなくて、録音物が好き。

録音された音楽というのは、現在の自分がタイムスリップしてその演奏されている時代と現場に立ち会っているような感覚になれるんです。これが一番の魅力です。その時代や場所の匂いや空気が感じられて、演奏家の演奏しているその時の意識と自分が同化するような感覚。それが私と録音物との一番大切な関係ですね。ライブはその時を聴くわけですからそれはそれで素晴らしいです。

●なるほど、その現場にいる、なるほど・・・(面白い!)

――人によっては歳をとったベテランのアーティストの今と昔を並列にして聴く感覚の方もいますが、私はけっこうそれぞれの時代や空気、芸風などその時ならではのものを意識的にも無意識的にもこだわっている感じです。演奏家は時や歳とともに変化しますが、自分にとって一番価値のある演奏家の時期を自由に選択して共有する事が出来るのは本当に楽しいですね。

それに対して、生の演奏会の魅力っていうのは、演奏家と同じ空間に生きているという喜びですね。それから生の演奏会の違いはこちらから演奏会に合わせなくてはいけないというのがあります。

いろいろな調整・犠牲・出費を乗り越えてたどり着いた演奏会場ではその瞬間から何かを得ようとする努力のパワーが自然に上がりますよね。その結果より大きな感動を自分の中で作ることができます。

昔から私は、わざと語弊のある言い方で「安く手に入れた音楽は安い聴き方しかできない」と言って来ました。「音楽の感動はお金とは関係ない」という反論は当然あると思いますしそれも正しいと思いますが、やはり苦労して手に入れたものからは何かを得ようとするパワーが違います。

CDが出現して良い音楽がいつでも簡単に聴けるようになったというのは大きな音楽鑑賞の変化でした。しかしこれは裏返すと「音も悪くならないし何時でも聴けるなら今聴かなくても大丈夫」というそれまで経験の無かった新しい心理も生みだしたんですよ。

ラジオの時代はその場で聴き逃したら二度と聴けないかもという集中力と記憶力が必要でしたし、レコードの場合は何度もかけると針が減ったり盤に傷がついたりという心配があると同時に、音を出すまでの手間もかかりました。カセット・テープでも聴き逃すと再度聴き返すのは手間がかかります。CDや音楽ファイルは良くも悪くもそういう手間から聴き手を開放したものだと思います。

ですので、CDや音楽ファイルからより多くの感動を掴み取ろうとすると、そういう心理状況を無理やりにでも作り出すことがすごく重要になると思います。今聴かないと次はいつ聴けるかわからないという心理状態でCDを聴ければずいぶん感動の質は変わると思います。

高価なオーディオは絶対必用なのか

●簡単になった分感動も薄れがちである、みたいな。では録音物を聴くのであれば良いオーディオが必須でしょうか?

――オーディオの事を言うと長くなっちゃうんであれなんですけど・・・・。オーディオに対する立場というのは、いろんな意見がありますけれど、私の基本は「再生音というのは現実の生音とは似ても似つかないものだ」というところから出発しています。

原音再生を目指すオーディオマニアからは怒られてしまいますが、弦をこする音を紙の振動なんかで再現できないですよ。要はその似ても似つかない音から如何に自分の中に生音の感覚を再現出来るかが重要なんで、人によって、また聴き方によって千差万別で正解はありません。自分の考える生音そのものや音楽の内容のイメージをたくさん思い起こさせてくれるのがそれぞれの方にとっての良い音になると思います。

もともとの音を再生すること、とか、ホールの響きを再現する、というのがオーディオの王道で私はもそういう趣味もないわけではないのですが、オーディオの位置づけは「自分の音楽体験を最大限に手助けするもの」と考えたいです。

あの時きいた感覚が呼び戻されるか、あるいはその演奏家がそこでやろうとしていることを聴き取れるかどうか。だから自分にとって音楽の本質が思い起こさせられるものであれば、どんなオーディオでもいいんじゃないかと思っています。

スマホのスピーカーでも?

――なんだっていい。スマホのスピーカーではもちろん情報量が少ないので聴き取れないものもたくさんあります。しかしどんな高級装置を使っても情報がすべて聴き取れるわけでもない。逆にスマホのスピーカーで聴くという状況ならではの発見もあったりします。ホールの最前列で聴くのと最後列の隅っこで聴くのとではそれぞれ得られるものと得られないものが違っていて、どちらかが100%有利という訳でもないです。近くで聴けばその演奏家のすべてが分かるというもなくて、そんな感じに似ています。

●でもそれはいろいろとオーディオを聴いたり生の音を知っていたりとか「いい音とはなにか」という事を体験、経験知として知っているから、ということになりますよね。子供の頃からスマホしか知らない人はそれでもいいのか、っていう議論も出てきませんか。グールドの「12音技法だけ聴いて育った子どもはどうなる」みたいな疑問ですけれど。

――それはそうです。だからって「良い」と言われている装置がよりよい音楽をもたらすかというとそうでもない。そこに完全な相関性はないとおもいます。例えばお金の問題とかね、高いオーディオとか、趣味の世界に入ってくると何が目的になってるのかわからなくなっちゃっているケースとかもありますしね。

長岡鉄男っていうオーディオ評論家の言葉で「趣味というのは手段が目的となることである」っていうのがあります。これは名言だと思います。

オーディオに関してはCD出現以降の再生は以前とは比べ物にならないくらい、知識も手間も機材も少なくて良い音で聴けるようになりました。特にこれからやろうという人は最初からそんなにお金使わなくてもいいですよ。スマホにヘッドホンを刺すだけでも十分なクオリティーがあると思います。

ヘッドホンは自宅で聴く場合はイヤホンタイプではなくやや大型のものがいいと思います。音質もそうですがヘッドホンの方が聴いてやろうという集中力が増しますしね。値段はピンキリですけれど5000円くらいでも十分良いものが出ています。

オーディオのセットに関して言えば、5万円を超えるようなものは高級機で、10万円を超えるものは趣味の要素が入り始めると思います。

ちなみに私の仕事場の機器は、私がオーディオを趣味としていることもあってそれなりに物量を投入していて、メインのシステムは30年以上前に作った自作の箱に入れたスピーカー38cmの低音用スピーカーを真空管式のパワーアンプで鳴らすものです。

サブのシステムは、実はこちらで聴いている時間の方が長いんですが、40年近く前に発売されたパイオニアのS-101という当時2本5万円のスピーカーに、5年前に買ったLEPY LP-V3という2000円以下の中国製アンプで鳴らしているというものです。数日前からアンプのグレードアップを考えて5000円くらいの中国製アンプを試していて発熱も消費電力も少ないので今年の夏はこれで行こうかと思ってます。

うおー、なんかこう、玄人のオーディオファン的な空気がビンビンと伝わってくるお言葉。素晴らしい!!こういうの、私大好きなんですよ!!めっちゃ興奮します。

――まあ人の好みとか傾向によっても勧めるオーディオとかは変わります。音楽の嗜好がわからないことにはね。フルトヴェングラー好きな人にトスカニーニ勧めてもしょうがないのと同じことですよね。出せる音量とスペースがどうなのか、そこによっても代わりますよ。大きい音が出せれば出せるほど情報量は増えますしね。少なくとも電話の音が聞こえないぐらいでオーケストラの音を聴かないとわからないと思いますよね。そしてそれはほとんどの場合無理なんですよ。

だからそれにあわせて勧めるオーディオも変わる。あとは予算。どれだけお金がかけられるか。環境と予算、そこに嗜好が入ってくる感じです。

あと、これをいっちゃおしまいかもしれませんけど、人間って弱いもので音でもなんでも、人が言った通りに聴こえたり思ちゃったりするものです。

それはどういうことでしょうか。

――これはこれこれ、こうやっているから音が良いんですよ、と言われたらそう聴こえちゃうってことですよ。自分も含めてそういうものからはどうやっても逃げられないんですよね。

あー、それはなんかとても良くわかる気がします。

――音質にしたって音楽にしたってね。誰かに「こうだよ」って言われたら大抵の人はそう聴こえちゃうし、ブランドによって音がよく聴こえたりしますよ。同じスピーカーにBOSEと書いてあるか、何か読めないメーカーが書いてあるかによって聴こえ方って変わりますからね、本当に。

ある人にとって価値のあることでも他の人には価値がないかもしれない。どっちもただしくて、正解は一つではないと言うか、それが絶対だというのはたぶん間違いだと思うんですよね。趣味とか感動っていうのは個人が勝手に自分の中で作っているものですからね。

即売についてまた少々お尋ねしたい。

経験とかそういうのから個人が導き出すものですからね・・・。

いまホールでのCD即売を数多く手掛けておられますけれど、ホールのお客様は曜日や場所によって傾向があったりしますか。

――特にクラシックは「会場についている」お客様が多いと思いますね。フィリアホールだったらフィリアホールの、武蔵野だったら武蔵野のお客様ですね。地理的要因、それとそのホールがどういう公演をやってきた、というのも大きいと思います。それに公演ごとに演奏家を目指してやってくるお客様がプラスされる感じでしょうか。

●CDは握手券、サイン会券だ、という考えについてはどう思われますでしょうか。

――即売をはじめたころはそうでもなかったけど。サイン会っていうのはそもそも2000年ごろぐらいまではあまりなくて、特に海外アーティストはなかった。その後どんどんやるようになってきましたよね。2000年ぐらいまではまだ演奏家って、少し遠いところにいる人でしたから。演奏家にサインを貰う人っていうのは昔からいますけれど、今は一般の方でも身近に会える、顔が見える、という状況になっていますよね。そこがそもそも変わって来ていますよね。

昔は輸入盤っていうのは一般の音楽ファンにはなかなか手に入りづらかった。なので私がかき集めて会場に持っていくと、よく持ってきたねこんなの、みたいにいわれてよく売れましたよね。そういう意味で当時は「音楽欲しさ」で売れてた部分はありましたけど、今はもっとサイン会化はしていますよね。

ただ、サインもらうっていうのは買った人にとって思いでのプラスアルファになるわけで、単にあのときのCD、というよりもずっと思い出になるわけじゃないですか。記憶の手助けになるというか。

あのコンサートのときは風が強くて、、、みたいな。

――そうそう。音楽ファンにとってサインがもらえるというのはいいこと、健全なことだと思いますよ。

●CDはいまでも売れていますか。

――外国でCDが売れていないのはもう数字をみれば明らかで、ぜんっぜん売れて無くて、パッケージは日本が圧倒的に売れてますよね。でもいずれはCDってなくなるんじゃないかと思いますよね。絶滅危惧種ですね。即売の売上だって少しづつ落ちてきていますから。お年寄りがどんどんお亡くなりになっている、ということもありますしね・・・。

ですよね・・・・。厳しいですよね・・・。みなさんもっとCD買って下さい!即売でね!!ところで仕事以外のご趣味を教えて下さい。

――いまはサッカーです。地元FC東京です。遠征とかも時間があって行けるものは行っていますね。

もともと人と群れるのがあまり好きじゃないんです。人と何かをするのはすごく好きですけど、同じことを強制的にやらされるようなのは好きじゃないんですよね。サッカーの応援でもみんなで振り付けて踊るとかは好きじゃなくて。もっと個人のノリというか、そういうのの結果として時々渦になったり、とかそういうのが好きですね。個人主義なのに気がついたらまとまっている、みたいな。イギリスのスタジアムなんかはそういう感じがします。FC東京のスタジアムは割とそういう強制が少なかったので居心地が良いですね。

ダイレクト・トランスファーCDについて

なるほどありがとうございました!それでは何か宣伝とか言いたいこととかなんでもこの場で、大声で叫んで下さい。

――ダイレクト・トランスファーCD-Rの話をさせて下さい。これは2006年からはじめたものです。何年か前に玉音放送の復刻の番組がテレビでありましたが、あれを手掛けていたのがSP盤の再生をライフワークとしてきた新忠篤(あたらし・ただあつ)さんという方なんですけれど、この方の音源を世に残そうと使命感のようなもので始めたものです。今はもう800タイトルになりまして、少しずつ新譜を出し続けています。新さんが復刻した音源を、私がCD-R化して販売ということです。

ダイレクト・トランスファーについてさらに詳しく以下ページをご参照下さい:
https://goodies.yu-yake.com/
https://shinshuu.com/dsda/index.php

目指しているのは「生々しいSPの再生」です。当時の演奏家の息遣いをどこまで今の装置で聴きとれるかっていうのを意識して目指してやっています。独自のCD-Rの焼き方で一枚一枚私が焼いています。それも何度も試行錯誤して作り上げました。これまでの復刻盤とは明らかに違う音がすると思います。

グッディーズのウェブサイトで販売していますので是非アクセスしてみてください。YouTubeにサンプルもあげていますので聴いてみて下さい。音の傾向はお分かりいただけると思います。

※ダイレクト・トランスファーのサンプルをYouTubeで聴くなら以下URLへ:
https://www.youtube.com/channel/UCMZSL60J-WC_7wzpo4_2EXg

●ありがとうございました。最後に・・・生まれ変わっても同じ仕事につきたいですか

――そうですね、音楽関係には就きたいですね。食べられるんであれば。もちろんものを売ることじゃなくたっていいです。

●このたびはいろいろと語って頂きありがとうございました!またコロナが落ち着いてコンサートがバンバン再開しましたらまたあんなホールやこんなホールのロビーでお会いしましょう!

(了)

https://mcsya.org/interview-with-takashi-onishi-goodies-1/