皆様ごきげんよう!ごきげんですか!私はごきげんです。昨夜とんかつを食べすぎたことだけが人生の悩みです。うそです。
本日はCD業界より、株式会社東京エムプラスの代表取締役社長、鈴木健介氏をお招きして、業界秘話をお話いただけることとなりました。
海外でCDが作られますと、それがああなってこうなって(流通して)、皆様のお手元に届くのですが、もちろん、そこには流通の専門会社のお仕事があってのことです。東京エムプラスはそんな会社の一つです。クラシック音楽も多数手がけていただいている、縁の下の力持ちであります。まさしく。ハイペリオンとか、Chandosとかを取り扱っている、と言うとなるほど、と首肯される変態・・・いえ、好事家の皆様もたくさんおられることでしょう。取り扱いレーベル一覧はここです(整備中につき最新の情報と異なる場合があります)↓
http://www.tokyo-m-plus.co.jp/label/index.html
「へーそうなんってんの」「そんなことになってんの」・・・・大変興味深いお話をお聞きできて、私は大変うれしい。皆様にも知っていただきたい。幸せのおすそ分け。受けるより与えるものが幸福である。幸せのお中元をあなたに。あ、もうお中元の時期は過ぎましたか。
♪いろんーなーおしごとー、あるーんーだーなー、走る、走る、はたらくくるーまー。
世の中のいろいろな仕事が、私達の生活を支えているのです。
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―鈴木様ごきげんよう。いつもお世話になっておりますが、こうして今回いろいろと根掘り葉掘りお話を聞かせていただけるとのこと、大変感謝しております。ありがとうございます。
まず、鈴木様の経歴なんかを教えて下さい。
鈴木:テレビのCMで流れていたフルートの音色に魅せられて小学校の音楽クラブに入ったのが大きな転機です。中学校では吹奏楽部でトランペットを担当し、「推薦」の二文字に惹かれあまりよく考えずに高校は芸術科音楽専攻に進みました。しかし私の唇がトランペット向きではないということで、実際、高音があまり出なかったんですが、入学初日にトロンボーンに転向、という思いもよらぬ展開が待ち受けていました(笑)。
―それは恐ろしい。
鈴木:もちろんピアノとソルフェージュは素人中の素人。あの苦行は思い出すだけで涙が出てきます。先生方には、本当にご迷惑をおかけしました。高校時代の3年間は吹奏楽部の活動と音楽専科の授業に明け暮れました。いま振り返ると一番充実していた時期だったと思います。青春を謳歌していました。高校卒業後は武蔵野音楽大学の管打楽器、バストロンボーン専攻に進学しました。競争もあり色々と大変でしたがオーケストラやウィンドアンサンブルのレコーディングにも参加させていただいたり、演奏旅行にも連れて行ってもらえたりと非常に濃密な4年間でした。音楽の道に進みたいという息子の無茶な要望を受け止めてくれた両親には本当に感謝しています。
―ざっくりまとめますと、素晴らしい学生時代をお送りになった、と。
鈴木:高校時代はいわゆる吹奏楽オタクでコンクールの実況録音CDや参考音源を集めるのが趣味だったのです。そこから段々と発展しまして「この曲のオケ版は手に入るのかな」、「レーベルってたくさんあるんだな」、「ムムム、この曲はCDになっているのか!どこで買えるんだろう」などという感じで、どんどんCDの世界の沼に足を踏み入れていきました。東京にレッスンに行った帰りは必ずタワーレコードやHMVに立ち寄ってまとめ買いをするというルーティンが確立されていました。
―ざっくりまとめますと、CD収集が趣味だった、と。
鈴木:そうです。大学在学中は練習の合間に図書館でレコード芸術を最新号からバックナンバーまで熟読していました。しかもほぼ毎日(笑)。もっと練習しろよ、って話ですよね。「スヴェトラーノフ特集」だけでも何度読んだことか(苦笑)
―ざっくりまとめ・・・いえなんでもありません。練習も必要ですが、そうやってインスピレーションを得るのも大事だと思います。スヴェトラーノフ、お好きなんですね。いいよね、赤い風船。
鈴木:扇風機です。私の専攻していたバス・トロンボーンはいわゆる普通のトロンボーンよりもオーケストラのオーディションが狭き門なのです。オケに1人いればよいわけですし。大学四年の時、次に国内でオーディションが行われるのは5年後とか7年後とかだったと記憶しています。それは卒業後の生活を考えるとさすがに待てない。
―風船は旅行会社でしたテヘペロ。さわやか過ぎてエフゲニー・フョードロヴィチに風船は似合わない。風船が赤いせいでレッドパージにでも遭ったら大変だ。しかし確かにそれは狭き門ですね。
鈴木:さらに自分の師匠と同等のレベルに到達するか、または超えなければ受かるのは難しい。これは自分には無理だと悟りまして、やはり今までの経験を活かしたい!とクラシック音楽業界、特にCD業界の仕事を探し始めました。留学は能力的(特に語学)にも資金的にも選択肢には無かったですね。
―現実を見るというのは難しく、そして大切ですよね。不肖私にも自分の現実を教えてくれた恩人が何人かいまして、今でも感謝しています。
鈴木:なかなかCD業界の求人が無い中、偶然、大学に当社の求人募集が来たのです。それで学校経由で応募したところ、トントン拍子に進んで入社することになりました。
中学校か高等学校の音楽の先生になって思いっきり吹奏楽部を指導したい、普門館を目指したい、という気持ちも強かったのですが、教員採用試験もまた狭き門。ピアノについてはペダルの踏み方すら分からないという絶望的なハンデあり、さらに演奏活動とのスケジュールの兼ね合いで大学在学中に教員採用試験を受けることが出来ませんでした。卒業後には奨学金の返済も始まりますから待ったなしの状況でしたので、教員への想いは封印しました。
師匠からは可能性はあるのだからもう数年、楽器を続けて頑張ってみたらどうか、という有難いお言葉をかけてもらえたのですが、最終的にCD業界に飛び込むことを決断しました。
―ピアノのペダルは私も踏み方が判りませんからどうぞご安心ください。ご存知かどうか、かつてはペダルが4つ5つあるピアノもあったんだぜ・・・混乱マックスだろ?もっと言おうか・・・・「ペダル・ピアノ」で検索した地獄を見るから絶対に検索しちゃダメだからな?
http://dalibor-miklavcic.com/gallery
・・・ほらね?
失礼いたしました。Mプラスで働いて何年になりますか。
鈴木:2003年3月入社ですので18年目になりますね。早いものです・・・(遠い目)
―18年!もうそんなに、、、、オフィスは巣鴨ですよね。実は私、巣鴨で降りたことないんですよね・・・最近大塚で初めて降りたんですけどね・・・道に迷いましてね・・・・(さらに遠い目)。
鈴木:はい、オフィスは創業時から巣鴨の現在の場所です。弊社の前身であるミュージック東京が巣鴨にあったこともあり、そのまま当地で業務を継続したと聞いたことがあります。
CDの流通についていろいろ教えて下さい
―なるほどそういう経緯でしたか。さてそれではそろそろ本題へと入らせていただきたいと思います。輸入盤CDは製作から店頭にまで並ぶまで、どういう流れになるのでしょうか。
鈴木:レーベル、アーティスト、プロデューサーなどによるプログラムの決定と契約→レコーディング→マスタリング→プレス→倉庫に入庫→注文→配送業者、航空会社に引き渡し→輸出通関→日本へ輸送→輸入通関→配送、納品→入荷処理→小売店に発送、納品
という流れが一般的ではないかと思います。国によっては配送業者への引き渡しの前に輸出通関が行われるケースもあったりしますし、日本国内でも在庫管理や配送業務を外部に委託している場合もあるので、ケース・バイ・ケースではないかと思います。
―なるほど、なかなか複雑ですね。素朴な疑問なのですが、そもそもどうしてこんなにたくさんのCDが次々と夜に出ているのでしょうか?
鈴木:演奏家の皆さんも様々な考えをお持ちだと思うので一概には言えないのですが、やはり自分の演奏を聴いてもらいたい、世に送り出したい、記録に残したい、というのが一番ではないでしょうか。もちろんビジネス的な側面も大きいと思います。
特に若手アーティストにとってCDは名刺代わりという意味合いが強いのではないでしょうか。自身を売り込む重要なアピール材料になりますし、有名なレーベルと契約出来て英グラモフォン誌、英BBCミュージック・マガジン誌や仏ディアパゾン誌など欧州各国の主要メディアで好レビューを取れればその後のキャリア形成にも影響を与えますしね。
近年のCD業界では演奏家が個人で自主レーベルを立ち上げるというケースや、演奏家自らがスポンサーを探したり、クラウドファンディングで資金を集めて製作費を負担するというケースも増えています。いわゆる「海賊版」は最近あまり目にしなくなってきました。
―現在店頭での販売と通販の割合はどれぐらいですか。
鈴木:これは月次によってかなり変動があるのですが、店頭販売+会場即売が50%~70%、通販50%~30%という割合かと思います。特に会場即売の売上が非常に大きいアーティストの来日が集中した時は割合が大きく変動します。
―やはり会場での販売が過半数を占めるというわけですね。今は招聘ものができないので輸入盤の販売は厳しそうですね。
鈴木:少しでも早く新型コロナが終息してコンサート、即売が再開することを祈るばかりです。招聘元の皆様ほどでは無いにせよ、我々のようなCD業界関係者は、海外のレーベルや演奏家を含み甚大な影響を受けています。
―いや本当に・・・。通販は最近始められたとお聞きしましたが、どうやって宣伝していますか。
鈴木:数年前から構想は練っていたのですが、6月11日に通販サイトを立ち上げることが出来ました。当初、最初の注文が入るまで数ヶ月~半年くらいかかるんじゃないか、と戦々恐々としていましたが、予想に反して好調なスタートを切ることが出来ました。まだまだ改善の余地は多いのですが、今後さらに多角的な販売、展開ができるよう、改善を進めています。
通販の本店は現在構築中でして、Yahoo!店のURLはこちらです↓
https://store.shopping.yahoo.co.jp/tokyo-m-plus/
新譜情報を中心としたニュースレターも定期的に発行しています↓
https://mailchi.mp/0a1b3b491ae0/tokyo-m-plus-subscribe
業界屈指のアナログ企業として有名な当社ですが、とりあえずここまでたどり着くことができたことは非常に感慨深いものがあります(笑)
宣伝方法は今のところSNS(Twitter)@tokyo_mplusと自社のウェブサイトですが、今後、当社の強みを活かした様々な形で情報を拡散すべく、様々な策を練っています。天下三分の計とか、連環の計とか、鶴翼の陣とか、啄木鳥戦法とか、ジェット・ストリーム・アタックとか・・・(寒)。
―赤い彗星に連絡しておきます。・・・「認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものを」(談:シャア・アズナブル氏)
通販は梱包とか実はけっこう大変だと聞いた事がありますが、注文から発送までの作業を教えて下さい。1件さばくのにどれぐらい時間がかかりますか
鈴木:大雑把ではありますが「受注→ピック→梱包→発送→発送完了連絡」これが通販の作業の流れです。
弊社には倉庫がオフィスに併設されていますので、注文受注後、すぐに処理できることも強みだと思います。梱包資材もスタッフが色々と試して用意してくれましたし、連携して迅速に対応してくれているので1件の処理に必要な時間は僅かですが、やはり件数が増えるとそれなりの時間はかかりますね。
―隣が倉庫、素晴らしいですね。在庫、だいたい何枚ぐらいあるのでしょうか。写真で見せいて頂くわけにはいきませんか?棚卸しは大の苦手です。
鈴木:倉庫はオフィスに併設していますから在庫確認のお問い合わせにもすぐに対応できますし、何よりも在庫が近くにあることにより、愛着がわくといいますか、しっかりと販売しなければ、という気分に自然となりますね。在庫数に関してはトップシークレットでお願いします(笑)。あと倉庫の写真も、ごめんなさいNGでお願いいたします。
―実は在庫は数枚しかないのではないか、ドラえもんのひみつ道具「バイバイン」で増やしてるのでは・・・。妄想が膨らみます。地震、火事、水害、盗難、破損などの対策、すなわち保険はやはり必須でしょうか。
鈴木:有事に備えて各種保険を掛けています。数年前ですが、1つ上のフロアから何故か大量のお湯が降ってきて在庫の一部が水浸しになったことがあります。配管の故障だったのですが、朝、会社に来て仰天しました。保険を掛けていたので大事には至らなかったのですが、何も対策をしていなかったらと思うと背筋が凍ります・・・。
―おおおお、やっぱりそういう事故があるんですね。おそろしや。保険必須ですね。CDを輸入する時は売れそうかどうかで発注数を細かくコントロールするんでしょうか?
鈴木:はい、発注数は細かくコントロールし、最終的には全て私が決めています。倉庫のキャパシティにも限界があるので滞留在庫にするのは避けなければなりませんし、反面、CD不況ではありますが売れるものはしっかり売れますので、在庫を切らすことの無いよう発注数を決めるときは非常に神経を使います。
今は残念ながらコンサートがありませんが、会場即売の有無で数量は大きく変わります。会場即売用のCDは基本、委託つまり貸出なので、売れ残ったCDは返送されてきてしまいます。このような事情もあるのでなるべく売り切れる枚数、でも足りなくならない枚数というのを即売担当のスタッフと一緒に熟考しながら決めています。
―その匙加減が難しいところですね。長年の経験と勘、ですね。輸入CDは船便で送られるのでしょうか。空調とか湿度コントロールとかがあるコンテナなんでしょうか?注文からどれぐらいで届くものですか。
鈴木:当社は100%航空便を使用しています。価格はもちろん船便のほうが安いですが、非常に時間がかかりますので基本的に使用しません。おおよそですが、早い場合オーダーをかけた翌週には入荷してきます。ただ処理が遅いレーベルは稀れに3~4週間かかるケースもあります。
ちなみに新型コロナ禍の現状では飛行機の減便の影響もあり、通常よりも1~2週間、遅れが発生しています。支払条件は色々ありますが、当社の場合は基本的に全て後払いです。
=後半に続く=