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業界人突撃インタビュー《第6弾》 作曲家 権代敦彦氏【後半】

この投稿は権代敦彦氏インタビューの後半です。前半はこちらからお読み下さい

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作曲にあたってはインスピレーションが降りて来るのを待つんでしょうか。映画をみたり墓地を歩いたり(※すぐそばに青山霊園が)とか、小説読んで、とか。

――待たないね。こっちから行きますよ。ただね、何かを思いつくのはね、不思議なんだけど便所の中とか風呂が多いですよね。入浴中あっと思ったら、出てすぐに書きとめておく。で、続きはまたあしたやる、みたいな。なんかよくわからないけどそうだよね。

●昔からそう言いますよね。

――僕は絵をみても彫刻みても映画見てもインスピレーションっていう意味では全然ダメなんだよね。ただね、建築はちがう。

建築からインスピレーションを受け、空間をイメージして作曲する

●なるほど建築ですか。

――これは違うね。古いものから新しいものまで。特に新しいもの、モダン建築はインスピレーションを受けますよね。建築家のつきあいもわりとあるし、友達も多いし。建築がとにかく大好き。あこがれの職業ですよね。

●あこがれ!!日本人の建築家では誰がお好きなんですか、坂茂とか。

――これはね、丹下健三。

●えーっ!そうなんすか!!意外だ!!って何が意外なんだかわかりませんけれど。

――別格だよ。神です。東京カテドラルは世界最高の建築ですよ、僕に言わせれば。あれは僕のあらゆる意味での原点。香川県庁とか、倉敷市立美術館とかね。60年代のモダニズムっていうんですか。でも圧倒的に東京カテドラル。圧倒的に、自分の原点。

●あー東京カテドラル。だからあそこで個展とかやってたんですか。

――そう。昔あそこで小澤征爾がシリーズでやってたりしましたしね。メシアンの「アッシジの聖フランチェスコ」日本初演とかね。そういう体験もあったし。

一時期はあそこでどう響くかって言うのを常に意識して作曲してましたね。自分の曲がどうあそこで立ち上がっていくか、どういうふうに鳴るかっていうのを常に意識していたんですよ。だからね、原点なんですよ。あの響きが。反射する感じ。

●Post festumもあそこの響きをイメージされたのでしょうか。

――ああそうかもしれない。大空間って言われたらまずあそこが思い浮かぶからね。

●でも確か昔(渋谷にあった)ジァン・ジァンとかでもやってましたよね。あっちは残響ゼロ!みたいな。

――そうそう。あれはもうカテドラルと裏表みたいなもんでね。ジァン・ジァンも教会の地下だったでしょ。あそこが好きだったのは三宅榛名が毎月やってた「現代音楽は私」シリーズのおかげですよ。高校生のころかな。80年代。

あの雰囲気は本当に好きだったね。公園通りからふらっと入っていけるっていう導線っていうか、そういうのも好きだったし、日替わりでいろいろやってたしね。永六輔とか淡谷のり子、美輪明宏とかね。そういう中で現代音楽を毎月一つ、みたいな。あれはあれで捨てがたい空間でしたね。古舘伊知郎とかもあったでしょ。

ともかく自分の場合は空間に刺激されるっていう感じですかね。まず空間があって、そこに音楽をはめこむみたいな感じです。

●そういう意味ではインターネットは相容れないというか。

――まあね。そうね。全く違う。空間じゃないよね。でも一人で聴くっていうのは嫌いじゃないんだけどね。音楽を選べばいいんじゃないかなと思うんですよ。晩年のノーノとかクラウス・フーバーの、聞こえるか聞こえないか、みたいな音楽は一人で聴くのがいいよね。

●池田亮司とか。

――そうそう、池田亮司とか。そういうのは前々から思ってたし、媒体を選ぶべきだと。

コロナ時代の作品、作曲

●ソーシャルディスタンスで弾ける曲を、みたいな依頼もあるんですか。

――ありますよ。今の時代ならではって言う。いま2つあるかな。両方声に関わっている作品ですね。

いま、みんなで声を合わせて歌う、とか「第九」を何百人の合唱で大声で歌う、っていうのはものすごく抵抗あるし、いままでと同じようにはそもそも聴けませんよね。合唱再開が非常に難しいこの時代に、歌わない合唱と言うかハミングと言うか、口を閉じて、あるいは合唱団の人が距離をおいて歌い合う、とか、口を閉じたままで歌いたいけど歌えない、そういう表現の曲を書きたいな、とある人に言ったらすぐ「そういうのを書いてほしい」って依頼を受けましたね。

※というわけでこのあと具体的な委嘱者とか内容の詳細を語ってもらいましたが、たぶん今はまだ発表できないことだと思うのでここでは割愛いたします。

●でもこの状況っていつまでつづくかわからないし、長い目でみればおそらく「期間限定」っていうことになるんじゃないでしょうか。「ああ、昔はそういうのがあったね」みたいなことにやがてはなりませんか。

――それでいいじゃない。時代の産物と言うか、いまそういうのを書きたい、演奏したいっていう人がいるわけですから。

●時代と音楽は密接に関わっている、ということ。

――そうだとおもいますよ。今の時代の音楽が残るかどうかはわからないけど、時代を超えた不変の価値観があるかどうかなんてそもそもわからないし。価値観って変わるものもありますよね。

例えばベートーヴェンの第九は自分にとってすごく意味のあるものだったけれど、いま僕の中で価値が変わってしまいました。あの第九でさえ、もしかしたら今の時代にはまったく効き目がないのかもしれないって思えてきて。

今は人となにかを一緒に歌うという行為がだめなわけでしょう。それが人の命を奪うことにつながっていくかもしれない。そういう時代に、第九とか、バッハのカンタータとかでもそうですけれど、合唱や人間が歌うっていう行為自体、危険だし色あせて見えますよね。

だから、第九の価値だって永遠不変のものではないんじゃないか。僕の曲だっていまここで産まれて、そしてそれがいま有効だったらそれでいいんじゃないかって思います。必要とされるのであれば生み出されるべきだと思うし。

●ミサとかゴスペルとかだって危険ですしね。

――そもそもみんなで集まって神をたたえていく必要があるのか、とかね。礼拝の形式とかもね。

●衝撃的だったのは幼児洗礼とかを水鉄砲で、っていうのがありましたね。本人たちは大真面目なんでしょうけれどさすがにどうなの的な。

――まあ水が大事なんでね。水こそがあれは命ですからね。水がかかればいい、って思えばね・・・。

●作曲は依頼されて書くのが基本ですか。

――そうですね。全部そうです。

●自分から書かせてって売り込んだことは、、、

――うーん。ないかな。幸いなことになんとか続いてきたかな。

●コロナで依頼が減ったり、なくなったりしましたか。

――今年は依頼がけっこう多いんですよ。例年どおりかそれ以上。初演が流れちゃったっていうのもいくつかあって、一番大きかったのは6月6日に初演されるはずだった、国立劇場の委嘱で書いた結構大きな曲。それが来年に延期になってしまいましたね。

●でもご破産ではなくて、延期ということですね。

――いまのところ幸い、消えちゃったプロジェクトっていうのは、ないですね。残念だったのは3月のロシアですかね。2月まではぎりぎりロシアはまだ通常通りというか、コンサートもやっていたんですよね。2月にも行ったんですよ。モスクワでバシュメットにヴィオラ協奏曲を演奏してもらいました。満席のチャイコフスキーホールでね、モスクワソロイスツ。

3月にもう一度ロシアに行く予定だったんですよ。今度はマリインスキー劇場(サンクトペテルブルク)でハープ協奏曲。独奏は篠崎史子さんで。準備してビザもとってあって。あぶないんじゃないって思ってたんですけど、結局2日ぐらい前にフェスティバルが中止になっちゃいましたね。

それから今年12月にまたロシアが、新作があるんですよ。リヒテルが始めた「12月の夕べ」というフェスティバル。プーシキン美術館で。そこでピアノコンチェルティーノみたいなのをやるんですけど。出来るかな・・・。

●なんかロシアめちゃめちゃありますね。

――ここんとこ続きましたね。

●自分の作品がどこで演奏されたかとか目録とか整理していますか。

――ジャスラックから3ヶ月に一回来ますけどね。まああまりちゃんと見てないかも。

●そもそも年間に何曲ぐらい書いているのでしょうか。

――5,6曲じゃないかな。多くて10曲ぐらいかな。今回の3曲についてはもちろん3つで1曲っていうカウントです。

●なるほど。よくわからないけど、そんなもんなんですね。うむ。なんかすごいな。ではスコアリーディング(※譜面を黙読する能力)はお得意ですか。

――ダメだね。得意って何を得意とするかにもよるけど。人の曲は特にダメだね。

●まあそうは言ってもめちゃめちゃ読めることは間違いないと思っています。桐朋ではSPいくつだったんですか?6ぐらい?えっ4とか・・・??(←いじわるな質問です)。

――・・・・(黙読)。

●たいへん失礼いたしました。それでは質問に戻りまして、お好きな作曲家は。

――大好きな作曲家ってのはいないです。いくつか好きな曲とかはあるけど、この人はっていう作曲家は特にいないかな。作曲家のスコアを勉強して、なんてことは多分学生時代からもうやってないです。だから人のスコアを読むって何をどうよんだらいいかわかんないかも。

●またまたご謙遜を。

――他の作曲家のオーケストレーションとかを勉強することはあります。ああこうやって書いたら効果的だな、とかそういうのはね、ちょっと眺めてみることはあります。

●ぐいぐい初心者質問をしますけれど、難しい複雑なスコアがあったとして、それを読んだら頭の中で音がじゃ~んって鳴りますか。

――ある程度はね。時間はかかるかな。そもそもね、作曲のレッスンてすごく時間がかかるわけ。例えば誰かがスコアをもってくるでしょ。それを読み解くのにすごく時間がかかる。だから最初の1時間ぐらいは沈黙。こっちが読むのが精一杯だから。へたなこともいえないし。

●沈黙の一時間(笑)!

――え、こんなことも知らないんですか!なんて言われても困っちゃうしね、必死ですよ。そういう意味じゃ他人のスコアをながめるのは苦手かもしれない。

●いまお弟子さんはいないんですか。

――いないです。

●弟子入りしてきたらとりますか。

――どうだろうな。教えるのは苦手かもしれない。ロシアでは頼まれてマスタークラスとかやってますけれどね。そもそもこのご時世、作曲家になりたいなんて人はどんどん減ってると思いますよ。

●なるほど。

――スコアについて言えば、自分の作品については、音がだんだんと昔よりも浮かんでくるようになって、今はほとんど想像したとおりにオーケストラが鳴ってくれますね。かつてはそんなことなかった。特に最初に書いた曲はぜんっぜんだめだった。全くオーケストラが鳴らなかったんですよね。

これは間違いなく経験で得たものです。失敗のくりかえし。自分が作曲で若い子に教えられる事があるとすればこれだけだと思います。つまり「効率的なオーケストラの鳴らし方」君はここでこれとこれとこの楽器を使っているけど、これじゃオケうまくならないよ、とかそういうのね。

●あとは、これやったら演奏家からクレーム来ますよとか。

――そうそう。昔は私も演奏家からものすごくクレームをもらいましたよ。でもいまは絶対にない。絶対に。絶対にです。

●えらい繰り返しますね。

――「これは弾けません」ってことだけは言われないように気をつけてるっていうことです。

●でもそう言ってぎりぎりを攻めてるんじゃないすか。

――まあね。「できません」「いやぜったいできます。これは実証済みです」みたいなね。これは経験で分かってきたことですから。

●で、あんまそれやって嫌われちゃったりしてね・・・。大オーケストラを書くのと小さい作品とでは全然違いますか。

――ソロが一番大変で手間暇がかかります。すぐにばれるし、ソロならソロでやっぱり出来る限りの表現をやりたいっていう側面ってありますしね。

●ソロの場合っていうのは、演奏家の事が頭にありますか。Aさんから依頼された作品だったらAさんの演奏を念頭に作曲する、とかそういう意味ですけど。

――話をもらってしばらくは間違いなくありますけど、書き進めるに従ってなくなっていきます。だんだん消えていきます。そういうのはなくなっていっちゃう。イメージとしては。

あと、編成が大きくなればなるほど個性みたいなのは薄まっていく感じがするかな。あるっていう人もいるかもしれないけど。

現実問題としてね、オーケストラとの練習時間ってすごく限られた時間しかないから、いかに少ないリハーサルで音楽が形になるかっていうのは考えますよね。例えば2回練習、ゲネプロ、本番っていう長さですからね。

そんな中で自分のイメージにいかに近づけられるか。極めて短い練習時間でも、だれも迷うこと無く、自分のイメージに寄せていけるか、ですよね。そういう楽譜にする必要は考えますよね。

●なるほど、、、、大変興味深い・・・・。ありがとうございました。じゃそろそろビール飲みます?

19日、新作初演がオンラインで聴ける!

――もうだいたい話したよね。ここのビール美味しいよ、って言っても2回しかまだ来たことないけどね。あ、すいませーん・・・。これと、これね。

●ではおビールが来る前、最後に一言お願いします。今週金曜日であるところの6月19日のサントリーホールの自作初演、聞いていただけるお客様にどうやって聞いてほしいかが、ぜひ教えて下さい。

――そうね・・・。インターネットでっていうことなので、その利点を活かしてと言うか、大空間とは全く違って、部屋で一人で孤独に、ヘッドホンを付けて、イヤホンではなくてヘッドホンでね、部屋を暗くして聞いてほしいですね。それに集中する、みたいな。そうしていただいたら、いろいろと聴こえてるんじゃないかなと思います。

●ありがとうございました!もういっかい書いておきますね。

◎サントリーホールの公式ページ:
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20200619_S_6.html

◎チケット購入のページ:
http://suntoryhall.pia.jp/ticket/pls06.jsp

それでは・・・・かんぱ~い。

――こんなんで良かった?イヒヒッ。っていうか僕ってそもそも業界人なの?

●立派な業界人じゃないっすか!!

満面の笑みである。

(了)

https://mcsya.org/interview-with-atsuhiko-gondai-composer-1/