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業界人突撃インタビュー第8弾 宍倉由希子氏(ロンドン、ハリソンパロット社 アーティストマネージャー)【後半】

この投稿は宍倉由希子氏インタビューの後半です。前半はこちらからお読み下さい。

日本語の方が緊張します

日々勉強ですね。なお私は東京に住んでいますが関西出身なので阪神ファンです。巨人は徹底的に大嫌いです。本当に嫌いです。本当に。しつこいですが本当です。

――日本人のお客様とのメールや電話は英語以上に緊張します。英語だとストレートに簡潔に物事を伝えられる様な気がします。日本でちゃんと就職したことがないので丁寧な日本語、日本のビジネスマナーなど勉強する必要があると日々感じております。

●日本はいろいろ難しいですよね・・・。でも英語でも繊細な言い回しが求められると思いますよ。英語でのメールの微妙なニュアンスであるとか裏に隠された含みとかは、なかなか私には理解できません。現地で常に学んでいるからこそおわかりになるんだとおもいます!

育休とか、有給とかはとりやすいですか。

――取りやすいですね。有給は必ず取らなくてはいけません。取っていないと取るように指示が入ります。育休は、英国の法律では最低11週間の産休を取る義務があり、最長で1年間取ることができます。男性の場合は2週間の育休休暇が取れることになっており(これでもヨーロッパ諸国と比べると短いんですが)、実際に取っている同僚もいます。

ハリソンパロットの同僚たちと

私が妊娠したことを社長や同僚に伝えた時、みんな心から喜んでくれた事は本当に感謝しています。この様な雰囲気なので、私も最長である1年間の育休を一人目と二人目の時と、両方いただいていますが、後ろめたさを感じることはありません。それと私の会社はおよそ80%以上の社員が女性です。そのため社長は女性社員の出産、育休、復帰をサポートしていかないと良い人材は残らないと言っています。

働きやすい環境で本当によかったと思っています。

●素晴らしいですね。私も2人目の子供が生まれた時、育休を取ろうかどうしようか考えましたが、結局とりませんでした。取ろうと思えば取れる環境ではあったんですがね・・・。

勤務時間は長いですか。給料はいいと思いますか。また通勤時間はどうでしょう。私は東京の端っこの終点の駅に住んでいるので例えばサントリーホールまで行こうと思うと片道余裕で1.5時間かかります。こういう距離感っていうのはロンドンでも普通なのでしょうか?

――勤務時間は1日7時間です(9:30 から17:30、ランチ休憩1時間)。長く働く同僚もいますが、ほとんどの人が定時で帰ります。給料は、金額だけを聞くと悪くないですが、税金や国民保険サービス料などを差し引かれた後手元に残るのは多くはありません。交通費も高く、日本の会社のように負担してくれません。そして物価が高いので給料のほとんどが住宅ローン、保育料、食費で消えていきます。ただ医療は全て無料なので、もしもの事を考えなくていいのはとても安心です。

持ち家に住んでいる人はほとんどロンドン郊外に住んでおり、ロンドンの中心地に行くまでに1時間から1時間半かかるので、東京と同じような感覚だと思います。

●交通費が出ないっていうのはちょっときついですね。日本でも自宅勤務が今回の件で広がったようですがロンドンではどうでしょうか。

――コロナの前から自宅勤務をする同僚は多かったです。というか、コロナ前から自宅勤務が取り入れられていたので、週5日1時間以上かけて通勤している同僚はほんの僅かです。私は週3日出勤して、2日は自宅勤務をしていました。

●ロンドンでコンサートが再開するのはいつぐらいだと思いますか。世の中の雰囲気はどんな感じでしょうか。悲観色が強いでしょうかそれともポジティブでしょうか。

――今のところ8月まではライブ配信以外ほとんどのコンサートがキャンセルされています。もし9月からコンサートが再開されたとしても観客数を減らす、木管、金管、歌なしのコンサート、短いプログラムなどが計画されていますが、まだ政府からのガイドラインが出ていないので正式には決まっていません(07/09現在)。

ポジティブに考えている人も多いですが、実際には第2波が来るかもしれないと不安に思っている人は多いです。7月上旬に、英国政府は芸術セクターに15.7億ポンド(約2100億円)の緊急支援パッケージを提供すると発表したので、これで劇場やホールを含む芸術セクターが守られ、そこで働くスタッフと携わっている芸術家も仕事が続ければと思っています。

●英国人はマスクを積極的にしていますか、ソーシャルディスタンスしていますでしょうか。

――コロナ前に英国で見かけるマスクを着用している人は日本人観光客ぐらいでした。今は街で着けている人を多く見かけるようになりましたが、日本よりは少ないです。ロンドンの公共交通機関ではマスクをつけることは義務になっており、つけていないと100ポンドの(およそ13,300円)罰金が科されるそうです。

●いまやトランプ大統領もマスクする時代に突入しましたしね。しかしポンドがいまべらぼうに安いのに驚きました。1ポンド133円ですかユーロ並みだ・・・。まもなく育休があけると伺っておりますが、その後は時短勤務とかあるのでしょうか。

――普通は9:30~17:30の勤務時間なのですが、私は保育園のお迎えがあるので8:30~16:30で働く予定です。つまり、時短勤務ではありません。また、週4日で働いている同僚も多く、仕事と家庭のバランスが取りやすくなっています。

●コロナで音楽業界は大変だと思いますが、業界の現状を知っているあるいは言っていい範囲で教えて下さい。

――厳しいですね。

●重い一言です。ヨーロッパの音楽事務所で働く人はマルチリンガル、つまりドイツ語やフランス語も堪能、とか、歌系の人であればイタリア語とロシア語がぺらぺら、とかいう人も少なくないと思いますが、やはりいろいろ話せるというのはそれだけで有利でしょうか、特に関係ないでしょうか。

――もちろん話せると有利ですが、それよりも話す内容が大事になってきます。あとは、言語以上にその国の文化、マナー、国民性を知っていると交渉しやすくなると思います。ちなみに、年に1、2回、日本のビジネスマナー(名刺の渡し方、メールの書き方、文化的な事など)のワークショップを会社で開いています。多くの同僚が日本のお客様と接することがあるので、とても好評です。

英国のビジネスマンが名刺交換を満面の笑みでしてくれるのは宍倉さんがワークショップやってくださっているおかげですね!もうほんとにみんなニッコニコやで。でも名刺交換っていうのもコロナでもうやめようかみたいな雰囲気も出てきているかもしれませんが。英国で仕事をするにあたり日本人でよかったなと思うことがありますかあるとすればそれはなんですか。

――この仕事に巡り合ったのは日本語が話せたからなので、それはよかったです。同僚から日本のお客様との交渉の時に必要とされる時はやり甲斐が出てきますね。

ではその反対に、日本人だとつらいなと思うことがありますか。

――日本人だからというか、外国人だから辛い経験をしたことがあります。今の仕事ではあまり感じませんが、ニューヨークの仕事をしていた時、コンサートに来るお客様と接する機会が多くあり、人種差別をされた経験は何回もありました。私の当時の英語力が乏しく、それで差別されていたかも知れませんが。

普通に街を歩いていて「国に帰れ!」と怒鳴られたことも数回ありました。イギリスの田舎町は分かりませんが、ロンドンは多民族都市なので私がどこの出身などあまり聞かれることがなく、住みやすく感じます。

人種差別は本当に根が深く難しい問題ですね。人には他人より優れていたいという欲求もありますしね。そのほかアメリカとイギリスの違いを教えて下さい。

――私個人の経験から話すので、偏った意見かもしれませんけれども・・・。

まず、一緒に働いている同僚ですが、ニューヨークはほぼアメリカ人で、外国人は数えるほどしかいませんでした。ハリソンパロットは英国人よりも外国人の方が少し多いぐらいで、インターナショナルな職場です。

私のデスクの隣はスペイン人、前はノルウェー人、斜め前はイギリス人という感じです。オフィス中で色んな言語を耳にし、刺激的です。世界中のお客様を相手に仕事をする音楽事務所ならではだと思います。

国民性の違いとしては、アメリカ人は初対面でもフレンドリーに話してくれ、物事をストレートに話すように感じます。英国人は日本人に似て、謙遜をした態度が好まれ、初対面での会話の話題は天気が多いですね。ブラックジョークが多い英国人と接していると、陽気で明るく物事を盛って話すアメリカ人が恋しくなります。

シニカルっていうやつですね。イギリス人の口からはひねったギャグがバンバン飛んできますもんね。私みたいな初心者はうまくそれに反応が出来ません。とりあえずオオウって肩をすくめてみせて、やれやれそいつぁ困ったね、っていう風な表情をしてみるとうまくいくことがある、っていうのは体験として知っています。

――有給と育休を比べると、英国の方がはるかに恵まれています。アメリカの制度では、出産や養子を迎えるにあたっては12週間まで仕事を休んでよく、雇用も保証されますが、経済的なサポートは国からはありません。英国で働いている人は有給の使い方が上手で、有給を使い旅行をしてリラックスをし、仕事に戻るという感じです。

ビザについて、若い人たちにアドバイス

ビザについてお教え頂けますでしょうか。

――アメリカではOPT (Optional Practical Training)という専攻した分野と関連のある職種で企業研修を行うビザがあり、最初の1年間はそのビザを使いました。リンカーンセンターでは就労ビザ(H1-Bビザ)が必要なスタッフを雇うことはあまりしていなかったので、ビザのスポンサーをしてくれるか不安でした。しかし、上司が人事部を説得してくれ、就労ビザを取得することができました。

この就労ビザは最長6年なので、その後はグリーンカード(永住権)がないと働けません。私のポジションで永住権を取得するには難しかったので、6年働いて日本に帰ろうと思っていました。ビザが切れる前にイギリスでの仕事のお話をいただいたので、タイミングがよかったです。

イギリスではまずTier 2 Generalという就労ビザで働いていました。このビザは雇用主が労働許可書を申請し、ポイント制による審査があり、取得することができます。英語力、仕事経験、貯蓄、給料の証明をしなくてはいけません。イギリスでは労働ビザの取得して5年後には永住権の申請をすることができるので、私は3年前に取得しました。

なおアメリカも英国も、国民の雇用を守るため、外国人の労働ビザ発行には年々厳しくなっています。

●トランプ大統領の発言など見ますとアメリカの方がさらに厳しくなって行きそうですね・・・。ところでヨーロッパはいろいろ旅されていますか。この国、この都市に住んでみたいなとかいうところがありますか?

――イギリスに来た当初はよくヨーロッパ内を旅行していました。飛行機は早く予約すると安いです。金曜日の夜仕事終わりに出発して、月曜日の朝一に戻って来て、空港から直接会社に行ったことも度々ありました。ヨーロッパ内の移動は短く、数時間の移動で全く文化や風習が違う街に行けるということは衝撃的でしたね。アメリカにいる時は体験できなかったことなので。

住みたい街としてはベルリンが、国際色豊かで、もちろん色んなコンサートもあり、都市自体そこまで大きくないので住みたいなと思いました。しかし、今考えてみるとやはりロンドンが一番好きですね。

なるほど、ありがとうございました!それでは最後に、将来英国で働きたいと思っている若い人たちへメッセージを一言、お願いします!!

――英語は沢山の人とコミュニケーションが取れる手段になりますが、英語が話せただけでは働けません。知識や経験を求められます。この分野では誰にも負けないという様な強みを持つことは大切だと思います。

英国で働くことに限らず、若いときに国内外を旅行をして色んな視野を持つこともいいかもしれません。私は学生の時にバックパッカーで中国、インドやアフリカなど貧乏旅行をしていました。直接今の仕事に役立っているとは言えませんが、旅行中に出会った人達、思わぬところでのハプニングを乗り越えた経験などは私の人生にとってかけがえのないものです。

それから人間関係を大事にして下さい。周りの人が仕事のチャンスを与えてくれるかもしれません。私はニューヨークと今の仕事は一般に応募したのではなく、知り合いから勧められて応募しました。

中学生でトランペットを始めた頃、30年後にイギリスの音楽事務所で働いているなんて想像もしていませんでした。周りで支えてくれた家族、友人、同僚、アーティスト、仕事関係者に感謝の気持ちでいっぱいです。

この度は厚かましいお願いにも関わらずご協力いただきまして、ありがとうございました!!またコロナが開けましたらぜひ東京で、ロンドンでおあいしましょう!!

(了)

ハリソンパロット社
https://www.harrisonparrott.com/

https://mcsya.org/interview-with-yukiko-shishikura-1/