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ハイフェッツのレッスンはどんなものだったのか

世の中には知らないことがいっぱいある。ヴァイオリニストの方々にとっては基本中の基本的な話かもしれませんけれど、ハイフェッツのピアニストを15年間務めたという人物がいる。インドネシア出身で、しかもオランダとジャワと中国の祖先を持っていて、しかもヴァイオリニストだがピアニストでもあって、しかもオーケストラをバックに複数の楽器を同時に演奏したこともある(たぶんピアノとヴァイオリン)、という、なかなか信じがたい経歴の持ち主であります。「しかも」多めにしておきました。

Ayke Agusさん(多分アイケ・アグスと読むんだと思うんですけど)71歳。ストラド誌にハイフェッツに関するインタビュー記事が出てこの方の存在を知りました。1973-1987年までハイフェッツの伴奏者を務め(主にレッスンでだと思うんですけれど)、毎日ハイフェッツのためにピアノを弾いていた時期もあるんだそうです。

https://www.thestrad.com/playing-and-teaching/dont-write-it-down-remember-it-inside-jascha-heifetzs-teaching-studio/14011.article

大変おもしろい。公式サイトを見ると2010年にはブログもやってたみたいだけどこれは長続きしなかったようだ。

ハイフェッツのレッスンについてちょっと書かれていて、ハイフェッツは生徒が楽譜に書き込みをするのを許さなかった(書くのではなく頭で覚えろと言われた)、とか、ブルッフの協奏曲第1番のレッスンではピアニストがつかまって、冒頭のオーケストラ部分5小節の演奏に20分かけたことがあった(ヴァイオリニストの出番がない)、とか、ヴァイオリンのパート譜で勉強するのはだめだった(ピアノ伴奏が一緒に書かれた譜面を使うよう求めた)、とか。

特に最初の5小節に20分かけたっていうのがめちゃおもしろいなと思ったんですよね私は。ヴァイオリニストは「待ちぼうけ」なわけで、お金を払ってレッスンを受けているのはヴァイオリニストなんで、私の時間/お金返してとか思ったかもしれないんですが、多分そう思うのは間違いで、その20分の間にいろいろなエッセンスが入っていたと思うんですよねあくまで想像ですけど。そこで一体ハイフェッツが何を騙った、いえ語ったのかとても気になるし、これを読んだだけの私ですら想像力が大スパークするようだ(いや、それでもやっぱりヴァイオリニストは私の時間を返せと思ったかもしれない)。

ハイフェッツはレッスン中にしばしば自分でも演奏して見せたが「唯一の欠点は、ハイフェッツが実演してみせるとあまりに素晴らしかったので生徒は自分の演奏の問題点について集中できなかったことだ」というのもまた最高にええ話や。レッスンになってないな、やっぱりお金返してって思うかな。でも目の前ですごい音楽が繰り広げられるわけだからやっぱり想像力が大爆発して上気して赤い顔しながら帰ったんじゃないかな。