この絵は初めて見たんですけど、ラヴェルの最後の肖像画というのでしょうか。ここにあったんですよ。
https://www.bbc.co.uk/programmes/p01tf15w/p01tdybf
ラヴェルは1937年12月28日に62歳で死去。つまり昨日が命日だったんですね。ラヴェルは原因不明ですが脳に障害が発生し、徐々に悪化していった。やがて自作品もわからないほどに脳の状態が悪くなっていく。しかし認知症というわけでもなかった。いよいよということで手術をしたところおかしなところは発見されず手術終了。一瞬意識を取り戻したがすぐに昏睡状態に陥ってそのままお亡くなりになったのです。手術は12月19日。
脳の手術っていまでもものすごく大変な部類に属するんだと思うんですが、1937年だといったいどれぐらいのことがわかっていたのだろうか。それにしてもなまなましい絵ですね。
この絵、ネット上では基本的に見つからず、どうやらBBCが購入したらしいアート系の写真・肖像画専門サイトに行ってみても、いまでは扱っていない?みたいでヒットせず。ただわかるのはこの絵はリュック=アルベール・モローという画家が、おそらくラヴェルが死んだ日に描いたということ。
この人物はラヴェルの友人だったようで、ラヴェルの《マダカスカル島民の歌》の楽譜に版画を提供しているっていうことだけはわかった。
正装をしているようであることから、死後に描かれたことはおそらく間違いがないんですが、頭に包帯やバンダナのようなものが巻かれているのが、手術の痕を隠すためであろうことは間違いがなく、なかなかにじわじわと迫りくるものがあります。
それにしても脳は不思議。ラヴェルの病気も不思議だし、そもそもラヴェルみたいなウルトラ精密な作品を書ける能力が脳にはある、というのもめちゃくちゃ不思議だ(なお本人は自作をうまくピアノで弾けなかったというのもまたまた不思議)。
ラヴェルの作品の複雑な「交錯するスラー」はやばいんですよ。スラーっていう言葉をご存知無い方のため説明すると、楽譜に用いる記号のことで「ここからここまでの音符をつないで(なめらかに)演奏して」ぐらいの意味を持つ曲線なんですよ。通常はそんなにややこしくないんですが、超精工に書かれているラヴェル作品においてスラーは時々「うそやろ」という形を取るんすよ。そう、こういうのとかね。
せっかく冬休みなんで、実際の音を聴いてみますか。ちゃんと上の楽譜の部分からスタートするようにセット致しました。ご登場いただくのはラヴェルに習ったヴラド・ペルルミュテール大先生、しかもこのとき御年87歳!87でスカルボ弾くとかまじやべー(なお30年前の映像です)。
いやーすごかー。
それにしても楽譜屋さんはどうやってあのスラーを実現しているのか、実際にお話を聴いてみたいものだ、作業の様子を見せていただきたいものだと常々思っていますが今年もそれが果たされぬまま間もなく終わるかと思うと、実に口惜しい。