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クリストフ・ルt氏との会話

今回のツアーで感じたことは、ルセ氏はどちらかと言えば饒舌な方ではなく、寡黙という言葉が似合うように思いました。しかしながらラテン系の方らしく、話し出して気分が乗ってくるといろいろとお話になる。そしてひとしきりお話をしたあと、「だろ?」という風に、あたりの人たちにウィンクをしてみせる、そんなひょうきん(ひょうきん、って死語?)な部分もお持ちでした。「オーツカレサマ」「ガンバッテー」「グルグル」など、謎の日本語もお使いになります。カタカナで、縦書きでクリストフ・ルt、とも書けます。負けるものかと私もデペシェヴ、デペシェヴなどと応戦します。

写真は大阪のフェニックスホールでの舞台袖、まさにこれから演奏しまっせ、直前のものです。この写実的な画像のタイトルは「やや振り上げた両手のジェスチャーとともに、なにかフランス語でジョークを言って二人のヴィオール奏者を笑わせているRousset氏の図」

それなりにいろいろとお話をさせていただきましたが、その中で興味深かったお話を少々。パリのノートルダム大聖堂の話。米子のホテルから空港までのタクシーの中でのことでした。早朝だったのでお互い低いテンションで淡々と。

燃えましたが、と振ってみますと、そうなんだよ、あれは我々フランス人にとっては相当なショックだったのだ。とのこと。その時自分はパリの全然離れた場所でリハーサルをしていたが、リハーサルを終えて外に出ると異様な匂いがしたのだ。何かが燃えているのか。それがノートルダム大聖堂だったのだ。

いろいろな建築家がアイデアを出しているそうですが、一部をガラスで覆うとかそういうこれまでのものとは違う形になる可能性もありますよね、と尋ねたところ、それについては自分はあっていいと思っている、なぜならそもそも燃える前の建物自体が、オリジナルとは違っているからね。

パリの人間にとってノートルダム大聖堂というのはそこにあるもの。知ってはいても、わざわざ行くことはしないよね。あれは、どちらかと言えば旅行者が行くものと言う認識。日本でも同じように昔燃えてしまったゴールデンテンプル(金閣寺)があったよね、あそこだって地元の人はあまり行かないんじゃないですか。東京タワーとか。

実は去年の12月にクリスマスの時期にノートルダム大聖堂でクリスマスコンサートをやった。あの時初めて、一般の人の踏み入れない内部に入ったけれど、実は素晴らしい建物なんだと言うことを改めて知った。屋上からの眺めも面白かったね。

それと、あそこのオルガニスト(オリヴィエ・ラトリーですね?)そう、(我々の招聘で彼は21年に日本に来ることになっています)、「彼は本当の天才だよ。即興も素晴らしいし、オルガンという楽器はわたしにとっては自分の楽器ではない、と思っているが、彼のような人が素晴らしい演奏をするのであればなおさらそう思う。自分もときどきポジティフオルガンは弾くけれど。

(なるほど。スコアリーディングや移調は得意ですか?)

あまり得意だとは言えないね。コンティヌオであれば移調は簡単だがそうでなければ得意だとは言えないね。

(とかいって実はめっちゃできるに違いない、ということは付け加えないといけません。疑惑の目である。こういうのはともかく鵜呑みにしてはいけないのだ。天才と呼ばれる人々はとかく我々凡人とは全く次元の違うところで話をしているのだ。こういうたぐいの謙遜を鵜呑みにしていたところ、実際には超絶バリバリ、っていうケースを私も何度も見てきたからね。)

そうこうしているうちに車は米子空港につきました。