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業界質問箱:『アーティストが英語を話せない時はどうしたらいい?』

海外アーティストが日本に来るときは、必ず詳細な旅程を組んで、旅の手配をして、itineraryという書類を作って事前にお渡しします。

日本の場合はかなりこれが「お・も・て・な・し」レベルまで細かく作られ実行されるのが普通で、日本が大好きと言ってくれるアーティストは、完璧に作られた旅程、そしてツアーに同行し的確に道案内をしてくれる(アテンドする、と言う)マネージャー、これらがあるから大好きなのだ、ということも一面としてあるのだと知っておくことは悪いことではないでしょう。

日本のサービスは過剰ではないか

日本ではやや過剰なまでにアーティストにサービスをします。ほんのちょっとアーティストが首を傾けたら猛ダッシュで飛んでいき「いかがいたしましたマエストロ!!!!」「え、おしぼり、、、おしぼり2ケですね!??あとぬれ煎餅に緑茶ですね?緑茶にはミルクと砂糖?かしこまりましたただいまぁっ!!!おい!田中、吉田っ!おめえらそこでぼーっと突っ立ってんじゃねーよ!!3秒で準備して持って来いよゴルァ!!すいませんマエストロ、すぐ持って来ますんでそのままお待ち下さいペコペコペコペコ」(んな奴ぁいねえよ)

しかしこれはコロナが終わる頃には、ある程度はやめようよ、ということになるかも知れません(ならないかもしれませんけれども)。旅程をびちっと作り、旅の手配をし、行動を完全に共にしてツアーをする、という行為は、人的リソースおよび金銭面でもかなり「消費する」ことなのです。いろいろカツカツなこの業界、今後さらにカツカツになるであろうことは明らか。できるだけリソースは大事にしなければならないのではないでしょうか。

イタリアのオペラハウスとかアメリカの地方都市とかでは、ギャラはこれだけ、公演はこの日、リハーサルはいついつどこで、じゃあとはよろしくっていう感じでぽいっと投げられ、旅など自分で全部準備みたいなケースもあるときいております。飛行機の手配、レンタカーの手配、ホテルの予約など、ぜーんぶアーティストがやるっていうケース。

旅費も、主催者によって出るところと出ないところがあるので、事前に主催者に確認し、出ない、となれば、最も安くつくように本人が頑張る。安く上げればその分自分の手取りギャラが増えるから。また「交通費宿泊費はあわせていくらまで現物支給」っていう契約もあります。その場合は限度額ギリギリを狙ってなるべくいい条件の旅を手配するわけだ。

日本にも英語の看板、ウェブサイト、翻訳アプリがいっぱいあるから、日本語話せなくても十分できると思うんですがどうでしょうか。実際個人で動いてくれる人も若い人を中心に出てきていますので、いきなり全廃、あるいは全面的に廃止というのはもちろん無理でしょうけれど、徐々に、段階を踏みつつ、スピード感を持ったかつてない規模で聖域なき改革が、出来ないものか?なあ田中!(しつこい)

一方で、反対される方のご意見もわかります。例えば「アーティストが会場に姿を現さなかったらどうする(誰が責任を取るのか)」「海外アーティストが一人で来られたって現場は対応できない」などでしょうか。

英語話せない人にぶち当たったら

さて、世のアーティストはだいたい英語を話しますが、ごくごくまれに英語を全く、あるいはほぼほぼ話せないアーティストがいます。私は自分の15年ぐらいの業界経験の中で、数えてないんですけど、たぶん200名ぐらいの海外アーティストの直接招聘に関わらせていただきました。だいたいですよ。だいたいね。で、そのうち英語が話せなかった人ははっきり覚えていて・・・・6名です。仮に分母が200名だとして3%ってことになりますか。

いや、これがグループとか団体だったらいいんですよ。その中に英語を話す人が必ず一人はいるから。でもソリスト系のひとたち、例えば歌手、ピアニスト、ヴァイオリニスト、こういった方々で、英語を話せない人にあたった場合どうすればいいのか。ちなみにこの6名っていうのは、全員ソリストです。内訳としてはピアノ1名、歌手5名です。

うっそ、歌手なの!そうなんですよ、歌手なんですよ。なお歌手って言っても全員オペラ歌手だったんですが、オペラ歌手は英語を話さない率が他のジャンルの人たちよりも高いように思いますね。これは知っておいてください。期末テストにも必ず出ます(出ません)。

一応国別で内訳を書いておきますね。もちろん個人名は伏せます。

●歌手5名:
スペイン人=1名
イタリア人=2名
ロシア人=1名
トルコ人=1名

●ピアノ1名:
フランス人1名

では彼らは何語なら話せたのか。オペラはイタリア発祥の文化ですし、イタリア語は非イタリア人の歌手3人全員が話せると言っていました。またフランス語もまあまあ行ける、という人もいて、それはロシア人とスペイン人とフランス人でした。

そう、なので海外のオペラ歌手を呼びたいみなさんは、英語に加えてイタリア語を話せるようになるとよりよいでしょう。イタリア語は発音も明快で日本人には難しくない!(文法がクソ難しいということは内緒な)それにイタリアオペラで言葉の微妙なニュアンス、音楽と言葉との密接な関係がわかるようになれば、オペラがもっとずっと立体的に楽しめるようになりますよ!!いいことづくめさ!!

ちなみに英語が話せない人でも、一生懸命、英語の旅程は読んでくれて、なんとなく理解はしてくれますので、最終的には何とかなります。しかし、道中の会話が徹底的に出来ない。そういう時どうするか、この職歴約15年の私が、せっかくゴールデンウィークだから特別にお教えしますね。

答え:困ります。