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作曲家の名前は《フルネームで》表記すべきか?マサチューセッツ大学助教授の主張

「ベートーヴェンと書く、ブラームスと書く、これは総て白人男性のクラシック音楽作曲家だけに適用され、女性や有色人種の作曲家はフルネームで書かれる。デデと書かずにエドモンド・デデと書く。これはおかしい、差別である。全員をフルネームで表記すべき」

・・・えっ。目を疑うような内容ですが、アメリカのマサチューセッツ大学アマースト校の助教授クリス・ホワイトという方の主張だそうです。なんと凄まじいことよ・・・・。

Beethoven Has a First Name ベートーヴェンにはファーストネームがある
https://slate.com/culture/2020/10/fullname-famous-composers-racism-sexism.html

まあ確かにビーバーとだけ書かれてもロザリオのソナタを書いたハインリヒ・ビーバーのことか、ピコ太郎にいいねしたジャスティン・ビーバーなのかすぐにわからないね(そりゃないか)。

一部の作曲家は名字だけを書き、一部はフルネームだ、そこんところがちょい気持ち悪いから統一しようよ、という「整理整頓」の意味合いもこの主張にはあるらしいので、それだったらなんとなくわからないでもないですが、差別と言われると、どうでしょう。

間違いやすい例ではバッハ一族ですか。バッハとだけ書いても違う人を指すケースもある。JだのCPEだのJCだのJSだのと、混乱しやすいこと風のごとし。クープラン一家もそう。あとシューマンと書いたところでロベルトではなく妻のクララの可能性があったりもしますね。我々は前後の文章からロベルトかクララかを理解をしているのであって、もしかすると誤解しているのかもしれませんね。

いま「有名な方のロベルト」・シューマンって書きかけてそれをやめたのは、生前はクララも有名だったから。むしろクララのほうが知名度は高かったかもしれないから。ロシアに演奏旅行したときなんか「クララの夫」扱いされてロベルトは嫉妬がすごかったんやぞ。「千恵子は東京に空が無いといふ」の世界やぞ。

ファーストネームをつけないことが差別だ!という主張には個人的にはかなりの無理やら跳躍やらを感じるんですが、アメリカではこういう議論が堂々と成り立つわけでしょうか。なんかもやもやするのは私が古い人間だからでしょうか。

クリス・ホワイト氏の主張によれば「ルートヴィヒ・ベートーヴェン」「ヨハネス・ブラームス」と書くべきだそうですが、別にベートーヴェンでええやん(って言ったら怒られるのでしょうけれど)。そもそも「van」が抜けてるけどそれはええのか。みんな大好きウォルフィーことモーツァルトは「ヨハンネス・クリュソストムス・ヴォルフガングス・テオフィルス・モーツァルト」なんですがどうしましょう。

あと有名なのでは画家ですけどピカソですか。スペイン人は名前が長い人が多いらしいんですけど、ピカソの本名は「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ」ですから。

これからはソーシャル・ジャスティス、ポリティカル・コレクトだからプログラムにお名前を全部書くべし、と言われたら・・・どうする?「コピペすりゃいいじゃん、別に手書きするわけじゃないんだし」。

・・・いや、もしかすると案外、我々の目の前にはそういう世界が近づいているのかもしれませんよ。冗談ではなく。