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譜めくりの極意

譜めくりに関するこういうページを見つけました(すいません英語のページです)。
https://bachtrack.com/art-de-tourner-les-pages-juin-2019

譜めくりがいかに大変で報われない仕事かということがユーモア混じりに書かれています。

譜めくりをすること。時々あります。今週ついにマリア・バーヨと共に来日するピアニストのフリオ・アレクシス・ムニョスは、譜めくりはいらない、というパターンの人なので、おそらく出番はないと思っていますが、来てみないとわかりません。頼まれるかもしれません。頼まれたらまた、やるかもしれません。譜めくり。

譜めくりをする条件は「楽譜が読めること」であります。それさえクリアしていればだいたい誰でもできます。でも、好きか嫌いかと言われれば、私は個人的には・・・あまり好きな仕事ではありません。なんとなれば絶対にミスは許されません。集中力を極度に消費する。気配を消しているので、仕事をしていたことにも気がついてもらえない。地味にじわじわ来る仕事です。

近くでいい演奏を聴けていいですね、といわれる事もありますが、そして実際に、近くで音楽が聴けていい、というタイプの譜めくラーもいますが、私は楽譜に集中するので音楽なんて全く聴いていない。

って言うとなかなか理解してもらえないのですが、大急ぎでコーヒーを飲んだりご飯を食べたりしても味なんかわからない、というのに近いと思うんですよ。素晴らしい料理というのは、リラックスしてゆっくりと味わってこそ感動する。絶えずプレッシャーにさらされ、別のことを考えていてはそれもだいなしなのである。もちろん他の意見もある事は存じておりますが、私個人としては、そういうことです。

譜めくラーにとっての恐怖はいろいろあります。突然現れる打ち合わせになかった繰り返し記号(繰り返すの、繰り返さないの?ピアニストはこの曲には繰り返しないって言ってたよね、じゃ先に進むんだね、めくるよ、えいっ!!アッーーー!!戻った!!)。楽章がページの最後で終わったときはめくるのか、めくらないのか?(これは打ち合わせ不足のために生じるトラブル)どのタイミングでめくるのか?(人によって早い遅いがある。早すぎると後で怒られ、遅すぎると後で怒られる)そもそもどこを弾いているのかわからなくなる(現代音楽とか)。

ありとあらゆる危険が口を開けて待っている。

演奏する側にとっても譜めくラーは恐怖の対象です。めくって欲しいときにめくってくれなかったらどうする!!ちなみに自分も、若い頃ですが、本番の時に譜めくラーが途中で落ちて「曲の最後までついにめくってもらえかなった」という恐怖体験があります。暗譜してたからなんとかなったけど極めて心臓に悪い。

面白かったのはロハン・デ・シルヴァというピアニスト。彼は譜めくりをする人に必ずこう言いました。「最後の段になったら、その曲がどんなテンポの曲であっても立ち上がってくれ。これは君がきちんと楽譜を追っているという事を私に教えてくれるのである。そして、最後の2小節にさしかかったらめくってくれ。どんなテンポの曲でも」。これはなかなか適切なコメントではないでしょうか。

譜めくり失敗のシーンを集めた心臓に悪い動画:

私の譜めくラーとしての一番の失敗談は、自分がその後弾くことになっていたため、譜めくり中にそっちのことに気を取られてうっかりめくり損なった(落ちる、と言う)ことでしょうか。そのときは演奏していた友人のピアニストがすごいこっちをチラチラ見てくるからはっと気がついて事なきを得たわけですが、あとでめちゃくちゃに怒られました。ゴローのバカバカバカ!アホ!と言われました(私は悟郎と言う名前なのです)。ごめんね。20年ぐらい前の話だけど。

あとヒヤリハットはいくつかありますが、ある大物のイスラエル人ピアニストY.B.氏に突如頼まれてプロコフィエフの8番のソナタをめくっていたときのこと。終楽章のいっちゃん難しいところあたりで、あっテンポが落ちた、やっぱりここはこれほどの人でも弾きづらいんだな、と思った瞬間に、どこを弾いてるのかわからなくなった。これは焦りました。すぐにまた立ち返ったので事故にはいたりませんでした。

なので、私が譜めくりをしていてら、いいなあ、と思うのではなく、ファイト、と心の中で思ってください。今日の譜めくり、よかったね、と言っていただけると嬉しい。

演奏よりもむしろ譜めくりがよかったよ、と言っていただける日が早くこないか、ああ早くこないか、と心待ちにしています(していません)。